エッセイ

47のシアワセを追いかけて

人知を超えた力に触れ、ちっぽけな自分を知る

巨大な高速道路の高架橋がぽっきりと折れて横倒しになり、波打つ路面を走行中だった車はなすすべなく滑り落とされて―

今から29年前、1995年の阪神淡路大震災が起こったとき、地震の衝撃を伝える一枚として世界中にニュース配信されたのが、高速道路の倒壊写真でした。

有名なこの写真はその後もたびたび引用され、震源地である淡路島の北淡震災記念公園につくられた「野島断層保存館」でも、入り口すぐのスペースに「国道43号倒壊再現模型」として設置されたほどです。

地震の発生は1995年1月17日午前5時46分。
マグニチュード7.3、最大震度7を記録し、6,434名の尊い命が奪われました。

当時、二十代半ばの私は、すでに社会人ではありましたが、自分のことでいっぱいいっぱい。遠い町の出来事として遠巻きに見ていた気がします。

その後の東日本大震災では、関東でも長い揺れを感じましたが、近年の熊本地震、今年の能登地震と、まさに日本は地震大国。南海トラフ地震や東京直下型はいつ起こってもおかしくないといわれています。

こうした地震の原因には、岩盤である「プレート」のズレや沈み込みが関係していることが知られています。東日本大震災は「プレート境界型」とされ、海底に震源があったことで津波の発生にもつながりました。

では、よく聞く「断層」とは何でしょう。
断層は、プレート内部にできた亀裂が地震などで断ち切られ、ズレが生じた場所、あるいはこうした現象のこと。阪神淡路大地震は、この「断層型」の地震です。

淡路島には、震源に最も近い「野島断層」が国の天然記念物として保存されています。以前に『ブラタモリ』で放送されていたことを思いだし、今回思い立って出かけてきました。

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断層保存ゾーンに入ると、すぐ飛び込んでくるのがこの場所。
手前にある側溝はもともとつながっていましたが、断層によって無残にもねじまげられ、横にあるアスファルトは爆発したように盛り上がり、ひび割れが生じています。

野島断層は長さ10kmにわたる断層帯の一部ですが、最大50㎝~1.2メートルの隆起と1~2メートルもの横ずれが生じているのがわかります。

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その先には約140mの断層が“むき出し”で保存されています。長く続く断層崖は屹立しながら二手に分かれ、地割れも生じています。当時ここにあった水路や生け垣が破壊された様子もありのまま残されています。

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その先に、断層の断面がわかるように掘り下げられた溝(トレンチ)があります。
斜めに区切られた断層の断面からは、右と左で地層の種類が違うのがはっきりとわかります。調査では同じ場所で何度も地震が発生していることが確かめられ、以前の地震は2000年前のものだったそう。

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断層の脅威におののきながら、裏にある「メモリアルハウス」へ。地震によって室内が傾いた様子や、食器棚が倒れ、家財が派手にぶちまけられた生々しい台所のありさまなどを目の当たりにし、思わず息をのみます。まるで時間が止まったよう。

野島断層は「活断層」であり、これまで繰り返し活動してきただけでなく、今後も活動する恐れがある、誤解を恐れずに言えば、“生きている”といってもおかしくないのです。

私たちの足元には、こんな断層が至るところにあり、その上に暮らしていることを忘れてはいけない……。

大地がぶるっと震えれば、地上の私たちなど1匹のアリのようなもの。被災者の方を前にしたらそんな言い方はできませんが、断層保存館を出て、高台から水平線を目にすると、なんだか足元がふわふわするような複雑な気持ちになりました……。

さて今回、淡路島でもうひとつ行きたい場所がありました。

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曇り空の下、海面が円形に泡立っているだけにも見えますが、これは訪れた当日のリアルな一枚。

鳴門海峡のうず潮の一部です。

有名なうず潮は、鳴門海峡の独特の地形によるものです。満潮と干潮の潮の流れの速度差から回転力が生まれます。

潮の満ち引きの関係で、時期と時間によってさまざまな大きさになります。この日のうずはサイズとしては中くらい。一番大きい「大渦」だと30メートルほどに達することもあり、そうなると世界一なのだそうです。そもそも潮の満ち引きは地球と月の引力から生まれるものであって、地球どころか、宇宙レベルのダイナミズム。

大鳴門橋の近くまでいくと、ぽこんぽこんとうずの花と呼ばれる小さな気泡が浮かび、激しい海流の中から、次々と水面が盛り上がり、渦が巻いては流れてゆくさまは圧巻です。船のそばで渦が起こると、引き込まれそうで怖くなるほど。同じ渦はひとつとしてなく、どれだけ見ていても飽きることがない、不思議でいて、畏敬の念すら浮かぶ光景でした。

神社好きの私からいえば、淡路島は「古事記」でも語られる「国生み神話」の舞台です。

イザナギ、イザナミの男女2神が、神から与えられた天の沼矛(あめのぬぼこ・ぬほこ)で大地をかき回し、矛の先からしたたり落ちたしずくから「おのころ(ごろ)島」ができ、それが日本の発祥だといわれています。

うずができては消えるさまを眺めていると、神話が誕生し、ここが国の始まりという思いになるのもさもありなん、という気持ちに。

大地の驚異、海流のダイナミズム、神話の世界。次元の異なるさまざまなパワーに翻弄され、なんだかクラクラしながら島を後にしたのでありました。

プロフィール

杉浦美佐緒

愛知県出身。カメラマン・編集者を経てフリーライター。旅をはじめ、美容・健康・癒し・ライフスタイル全般を幅広く手がける。好きな食べ物は熊本の馬肉、京都のサバ寿司、仙台のずんだもち。憧れの旅人は星野道夫。旅のBGMは奥田民生の「さすらい」~♪

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