エッセイ

恋しいアジア!お腹もまんぷく美味しい食紀行

甘すぎるジャムや驚きネーミングのパンが揃うアジア旅

パンの焼ける香りを辿りながら、休日にパン屋さん巡りをするひと時。まるで雑誌に出てきそうなシチュエーションを楽しんでいる人も多いのでは?日本には、おしゃれカフェや海外から上陸した有名パン屋さんが至る所にありますね。その反面、レトロ感覚な昔ながらのパン屋さんの作るジャムパンや純喫茶の玉子サンドが注目されるなど、新旧それぞれのパンの楽しみ方が混在しています。

日本以外のアジアに目を向けてみると、海外から出店しているおしゃれパン屋さんも多いのですが、それ以上に雰囲気のある現地密着型の店がいたるところにあり目をひきます。喫茶店とレストランをミックスさせたような飲食店に、名物のひとつとして提供されていることが多く、地域密着型で現地の人たちから愛されているなぁと感じます。現地の人にまじってローカルアジア旅してみませんか?

【香港/パイナップルパン】
香港式カフェレストランを茶餐室(チャーチャンテーン)といいます。香港独特の飲食店で、中華料理や洋食を揃える店、アレンジメニューを提供する店など、個性豊かなB級グルメのラインナップとなっています。

そんな茶餐室のデザートメニューで絶大なる支持を受けているのが「パイナップルパン」です。ブリオッシュ生地のふんわりパンで、その見た目が”パイナップルのようだ”といわれたことからその名がつきました。日本でいうならメロンパンのような存在でしょう。

ブリオッシュ生地をクッキー生地が覆っているので、サクサクの食感です。プレーンもあるのですが、ほとんどの人がオーダーするのがバター入り。5cmほどの高さのあるパイナップルパンをフォークでつぶして食べるのが特徴です。噛んだ瞬間にダイレクトに香るバターがしつこいかと思いきや、「これはいける!!」。生地の甘味と一体化してぺろりと平らげてしまいました。

茶餐室はメニューがとても多く、食事を楽しむ人もいれば、パイナップルパンを食べにくる軽食目当ての人も多く訪れます。香港は断然ミルクティー派が占めているので、パイナップルパンはミルクティーが良きお共になります。また、紅茶とコーヒーをブレンドした魔訶不支持な味わいの「鴛鴦茶(えんおちゃ)も人気なので、好奇心旺盛の人はぜひ試してみてくださいね。

【台湾/棺材板(グヮンツァイバン)】
日本名では通称”かんおけパン”!!いきなりなんだと思うその驚きのネーミングのパンは、台湾の夜市という屋台街でも人気のパンのひとつです。棺桶というとあまり縁起の良いものとはいえませんが、さてどのようなパンでしょうか。

台南市にある棺桶パン発祥の店「赤崁」を訪れてみました。皿にどんと置かれた棺桶パンの正体は”シチューパン”。日本の6枚切りほどの厚みの食パンを揚げ、上面と中身を底が破れない程度にくり抜き、ホワイトシチューを注いだ料理です。これをナイフとフォークを使ってレストランではいただきます。夜市では4等分にしてガブリと食べるのが主流です。

ホワイトシチューには、エビやイカが入っていて少々塩味の効いたシチューでした。食べてみれば、揚げたパンのオイリーさと素朴な味のシチューが妙にマッチして「やはり本場のおいしさは屋台には出さない味だ」とB級グルメマニア心をくすぐりました。この店では他にカレー味もあるのですが、やはりホワイトシチューにはかないません。

1942年の創業時に出されていた時は、ホワイトシチューではなく、鶏肉のレバーだったそうです。ある考古学者がその料理を食べ、「まるで発掘された昔の棺桶のようだ」とという一言から棺材板と名がついたとのこと。その後その名は台北にまで広がり、屋台B級グルメの仲間入りをしたとの説があります。台湾が日本の統治下にあった時代に始まった商店街のような市場内にあるので、足を踏み入れるのに戸惑うかもしれませんが、発祥の味を体験してみるもの楽しいですよ。

【シンガポール、タイ/パンダンリーフジャムトースト】
東南アジアの国々は平均気温が高いことから、甘味や酸味、塩味などの五味や刺激を感じる辛みが、はっきりした料理やデザートが多くあります。暑さに負けないための工夫のひとつとされていますが、日本人の中には口に合わないと嘆く人もいます。しかし、食べ慣れると案外クセになってしまうことも。

ジャムトーストは、純喫茶などで提供される朝食メニューの定番ではありますが、シンガポールやタイでも人気のジャムトーストがあるんですよ。トーストに塗るジャムの色合いは、日本ではお目にかかれないような緑色です。この色は、パンダンリーフという甘い香りを放つ葉の色で、食材にそのまま入れたり、煮出したりしてエキスを使用します。このパンダンリーフとココナッツミルク、卵、砂糖で煮詰めてジャムにするのです。

写真上のシンガポールはパンダンリーフのジャムである”カヤジャム”を塗った「カヤトースト」です。シンガポール名物としてガイドブックにも掲載されるほどのポピュラーなもので、シンガポールではその食べ方にびっくりです。なんと温泉卵とセットでオーダーするのがマスト!温泉卵に醤油とコショウを加えカヤトーストをつけて食べるのです。けっして卵サンドではありません。塩味の効いた温泉卵が甘いカヤトーストと合うんですよね。絶妙な塩梅で対比効果抜群!さらにコンデンスミルクたっぷりのコーヒー”コピ”と共にいただくのですから、どれだけ糖分補給することやら。

片やタイでは、パンダンリーフは”バイトゥーイ”といい、こちらもスーパーで瓶詰めが売られているほど定番ジャムです。写真右は、バンコクにある50年以上の歴史あるミルクドリンク店「モン・ノム・ソット」のバイトゥーイトースト。たっぷり塗られたバイトゥーイの甘さが脳天突き刺すほどにめちゃくちゃ甘いです。しかし、トーストに塗られたバターの塩味が交じり合って絶妙なおいしさです。名物の牛乳がおやつにもよく、地元の若者にも大人気なのです。

このジャムは、めちゃくちゃ甘いのですが、パンダンリーフとココナッツミルクの香りがとてもよく、ハマる人も多く、最近では日本でも輸入商材チェーン店やスーパーでも見かけるようになりました。イチゴやオレンジのようなさわやかなフルーツジャムとは一味違った甘いジャムトーストを朝食メニューとして取り入れてみてはいかがでしょう。

パン自体の味を探ってみると、小麦粉や卵、水、生地の発酵の仕方から焼成まで、やっぱり日本の技術は優れているなぁと感じます。しかし、その土地の人たちが地元食材で作り、気候に合わせた製造の仕方と向き合い、年々レベルが上がってきているのも事実。その変化もどんどん感じていきたいと思えるパンの旅でした。

プロフィール

伊能すみ子

アジアンフードディレクター/1級フードアナリストアジア料理を得意とし、旅をしながら食の楽しさを探究。メディアを中心にアジア食品の提案、店舗リサーチ、食文化コラム執筆など幅広く活動。また、ごはん比較探求ユニット「アジアごはんズ」では、シンガポール担当として、東南アジア4カ国の食べ比べイベントを不定期で開催している。

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