エッセイ

春夏秋冬「ゆる伊豆」だより

東伊豆 お菓子になった成金豆

伊豆の農産物と聞かれたら、みなさんは何を挙げるだろうか。 真っ先に挙がるのが、ミカンなど柑橘類とお茶。続いてワサビ、イチゴ。もしかすると、シイタケやトマト、スイカを挙げる伊豆マニア上級者(!?)がいるかもしれない。

伊豆半島は海岸線の独特な地形と温暖な気候条件を活かして、その昔から数多くの特色ある野菜が生産されてきた。特産物のひとつ「キヌサヤエンドウ」は明治時代から東伊豆・熱川を中心に栽培が始まったといわれている。

伊豆で採れるキヌサヤエンドウは色艶も形もよく、美味しいと評判に。首都圏など都市部へ出荷すると高値で売れ、キヌサヤ栽培で財を成す農家も少なくなかった。

その時代、貧乏人が急にお金持ちになったことを、将棋の駒の変化になぞらえて「成金(なりきん)」といった。そこからキヌサヤエンドウに「成金豆」という呼び名がついたと言われている。

聞くところによると「新春に食べるとお金持ちになれるから『成金豆』」という説もあるそうだが……筆者としては、前者の説を推したいところだ。当時の伊豆人の人間臭さが感じられて、思わずニヤリとしてしまう。

21世紀の今となっては、キヌサヤエンドウの特産地は鹿児島県に取って代わられ、静岡県は全国7位(2017年農林水産省調べ)。タイやペルーなど海外からの輸入も多くなってきた。「昔の光、今いずこ…」と揶揄されそうだが、まだまだその光は消えていない。

ご当地ブランド野菜「伊豆きぬさやえんどう」名付けられ、少量ながら現在でも生産されている。第二次世界大戦中、生鮮野菜統制などで栽培量が激減した伊豆のキヌサヤ。風前の灯だったが、戦後、保存していた種子を利用して伝統野菜として復活させた。

その味わいは格別と評判で、料亭やホテルで使われている。若々しい味わいの春ものは4~6月、甘みのある成熟した秋ものは9~11月に旬を迎える。

さて、そんな東伊豆の銘菓に知る人ぞ知る逸品「成金豆」がある。伊豆大川駅近くにある、1951年(昭和26年)創業の菓子店「清月堂」の看板菓子だ。

名前の通り、キヌサヤエンドウを模したお菓子で、甘く煮たエンドウ豆を、キヌサヤエンドウの形をした羊羹(ようかん)で包み、表面に砂糖をまぶしたもの。「全国菓子大博覧会」で名誉総裁賞を受賞した銘菓だ。昔懐かしい甘さが心地よく、ブラックコーヒーや抹茶によく合う。

「成金豆」と並ぶ人気商品が「さざえ最中 波の子」。サザエの殻の角まで表現された最中のなかに、粒感を残した甘い小豆あんが驚くほどたっぷりと入っている。ユニークな意匠とずっしり重たい最中は、あんこ好きにぜひオススメしたい。

「成金豆」は、伊豆の歴史を写したお菓子の代表格。東伊豆への旅行の際には、ぜひ伊豆大川駅で下車してみて欲しい。

プロフィール

小林ノリコ

伊豆在住フリーランス・ライター/伊豆グルメ研究家。東京の編集プロダクション勤務を経て、2005年から地元伊豆でフリーランス・ライターとしてのキャリアをスタート。2014年より静岡県熱海市を拠点に移して活動中です。47エッセイでは、四季折々の伊豆(たまに箱根)の風景や食を中心に、あまり観光ガイドに載らないようなテーマを、ゆる~くご紹介していきます。

写真
このシリーズの一覧へ
エッセイをすべて見る
47PRとは
47PRサービス内容