エッセイ

春夏秋冬「ゆる伊豆」だより

伊豆は個性あふれる箱寿司天国

いよいよ新年度が始まります。入園・入学、入社などで新しい節目を迎えた方も多いのではないでしょうか。そんなお祝いの食卓に、みなさんはどんな料理を出しますか? 伊豆では、ハレの日の定番メニューとして、地域ごとに個性ある箱寿司が伝わっています。箱寿司の歴史は古く、「押し寿司の原型」とも言われているそうです。

例えば、伊豆市中伊豆地区の「原保(わらぼ)寿司」(きりだめ寿司とも言う)。「きりだめ」と呼ばれる浅い木箱に詰められた酢飯をマス目状に分け、その上に、しょうゆと砂糖で甘く煮た干しシイタケ、サッと煮たニンジンとインゲン、甘い味の炒り卵、ツナを乗せます。それを木のヘラですくって食べるのです。このようなスタイルの箱寿司は、19世紀初頭に刊行された料理本にも載っているのだそうですよ。

また、ユニークなのは、東伊豆町稲取地区に伝わる「げんなり寿司」。一度聞いたら忘れられない名前の由来は、「あまりの分量の多さに食べる人が『げんなり』するから」という説と、「ゲン(縁起)がよくなるように」という説があるそうです。箱寿司というよりも「押し抜き寿司」の仲間に入るもので、酢飯の上にマグロの刺身(写真には写っていません)、紅白2色のそぼろ、卵焼き、甘煮のシイタケが乗っています。それはまさに、見ただけで「げんなり」してしまうほどの超ビッグサイズ。写真ではわかりにくいですが、一個の表面はハガキほどの大きさなんです!卵焼きやマグロの刺身は、寿司飯を覆ってしまうほど大きな切り身。「食べやすいように」などという配慮は一切ありません(笑)。断じて嫌がらせではなく、「お腹いっぱい食べてもらいたい」という、おもてなしの心が形になったのではないかと思うのですが……昔の人はどう感じていたのでしょうか?気になります。

そのほかにも、伊東市に伝わる夏・秋のお祭り時期の縁起物「箱寿司」、西伊豆町田子地区に伝わる押し寿司系の「田子寿司」や、南伊豆町・下田市周辺地区の秋~冬の名物「さんま寿司」など、じつに多彩な箱寿司が伊豆中にあります。伝統食なので、日常的に食べることができる飲食店は、残念ながらほとんどありません。まれに仕出しのお店で販売されていたり、イベントなどでお弁当として売られていたりします。旅行の時に見つけたら、ぜひ食べてみてくださいね。

プロフィール

小林ノリコ

伊豆在住フリーランス・ライター/伊豆グルメ研究家。東京の編集プロダクション勤務を経て、2005年から地元伊豆でフリーランス・ライターとしてのキャリアをスタート。2014年より静岡県熱海市を拠点に移して活動中です。47エッセイでは、四季折々の伊豆(たまに箱根)の風景や食を中心に、あまり観光ガイドに載らないようなテーマを、ゆる~くご紹介していきます。

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