エッセイ

春夏秋冬「ゆる伊豆」だより

伊豆のジビエ・鹿肉料理と獣害問題

冬の伊豆で名物料理と来れば、「猪鍋(ぼたん鍋)」を上げるグルメも多いことだろう。
猪鍋は伊豆市・天城湯ヶ島温泉周辺の名物としてよく知られているが、最近同地では鹿肉料理を取り扱う店が増えている。丼ぶりものに始まり、ビビンパ、ピザ、パエリア、ハンバーガーにパスタなど、じつにさまざまな料理が考案された。10月に開催された鹿肉普及促進イベント(イズシカフェス)では、地元の飲食店や旅館が参加した鹿肉料理のコンテストが大盛況だった。

近年、シカやイノシシによる獣害は増える一方。狩猟者の減少を含め、日本中の田舎で問題になっているが、伊豆も例外ではない。伊豆市における昨年の捕獲数はシカ約2500頭、イノシシ約800頭。かつては捕獲しても食用になるのは一部で、ほとんどが山に埋められていたのだそう。ジビエ(野生獣肉)を普及させることによって地場産品としての需要を生み出し、狩猟者の活動を支えようと、自治体もバックアップしてキャンペーンを張っているようだ。

「命あった動物を最大限に有効活用する」。こういった活動には賛否両論あると思うが、放置すれば農作物だけでなく、山林の生態系まで破壊される恐れがあるほど深刻な事態になっているのだ。伊豆市内だけでもシカ・イノシシによる農作物被害額は約一億円にのぼる。一刻も早い解決が望まれている問題だ。

そんな中、ここ数年で伊豆市や賀茂郡南伊豆町に、シカ・イノシシの加工処理施設が完成。登録狩猟者と連携し、衛生管理の徹底した建物ですばやく処理・加工するシステムやトレーサビリティが整った。「固い」「クセが強い」「臭い」と嫌厭されてきたシカ肉(イノシシ肉も)だが、処理の方法と加工の工夫をすることによって、臭みがなくなり肉の味も格段に良くなるのだそうだ。

実際に、私も伊豆で加工されたジャーキーやコンビーフ、パスタソースでシカ肉を味わってみたが、赤身が多いので食べやすくコクがあり、臭みもクセもなくとてもおいしく感じた。調理が簡単で肉が安く手に入るなら、ぜひ家庭料理でも使ってみたいと思うほどだった。また鹿肉は、豚肉や牛肉と比べて高タンパク低脂肪。低カロリーで豊富な鉄分を含んでいるので、まさに私たち女性にはピッタリのヘルシーな食材なのである。

伊豆名物として鹿肉料理が普及し、伊豆の山林がバランスの良い生態系を保っていくことを願っている。

プロフィール

小林ノリコ

伊豆在住フリーランス・ライター/伊豆グルメ研究家。東京の編集プロダクション勤務を経て、2005年から地元伊豆でフリーランス・ライターとしてのキャリアをスタート。2014年より静岡県熱海市を拠点に移して活動中です。47エッセイでは、四季折々の伊豆(たまに箱根)の風景や食を中心に、あまり観光ガイドに載らないようなテーマを、ゆる~くご紹介していきます。

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