春夏秋冬「ゆる伊豆」だより
麦こがしは美味し
今までは、とくにどこかに事務所を構えるでもなく、ゆるーいノマド・ワーカー・ライフを送っていた。
私が勝手に活動拠点にしていた、市内のとあるカフェを運営している会社が、2015年夏、店舗の斜向かいにゲストハウスをオープンさせるという。そのラウンジをシェアオフィスとしても開放するというので、その場で即、入居を決めてしまった。
熱海で商売するからには、やはりその土地の神様に挨拶が必要だろう」というわけで、熱海郷の地主の神様、來宮(きのみや)神社へお参りに行くことにした。
來宮神社は来福・縁起の神様であり、現在では日本屈指のパワースポットとしても人気だ。脚本家の橋田壽賀子先生がドラマのクランクイン前など、ことあるごとにお参りされるということでも知られている。ジャンルは違えど、私も文筆業の端くれ。橋田先生のように家庭と両立させながら末長く文筆活動を続けられるよう、社殿奥にある樹齢2000年の「大楠」にも、しっかりと手を合わせてきた。
さて、來宮神社で味わえる美味いもの、といえば「麦こがし」を使ったお菓子である。「麦こがし」とはオオムギを炒って挽いた粉で、「はったい粉」と呼ぶほうがポピュラーらしい。來宮神社の御祭神が熱海にお着きになった際、「麦こがし、橙、ところ、百合根」をお供えすると、御祭神が大変喜ばれた。その古記や神社にちなんだ「来福スイーツ」を市内の飲食店数店が工夫して売り出している。
麦こがしを使ったお菓子は、饅頭をはじめガトーショコラ、クッキー、サブレ、カステラなど。麦こがしの香ばしさと自然な甘みを活かした商品が販売されている。また、神社直営の「お休み処」では「麦こがしソフトクリーム」、境内の「茶寮 報鼓」では「麦こがし入りおしるこ」や、「麦こがしアイスクリーム」が乗ったコーヒーフロートなどを味わうことができる。
粉なのに、どんなお菓子に仕上げても、その香ばしい風味が前面に出る強い存在感。昨今のライターも個性がものをいう商売である。私もあやかりたいものだ。
麦こがしのお菓子を味わうたびに、昔懐かしく甘く切ない感じがするのは、「麦こがし」という語感が、歌手・森昌子さんのヒット曲「せんせい」の一節、「胸こがし~♪」を連想させるからかもしれない。いかん。こんなダジャレまがいの表現しか思いつかぬようでは、神様どころか読者様にも愛想つかされてしまうぞ。まったくもって、お「こが」ま「し」い!!
プロフィール
小林ノリコ
伊豆在住フリーランス・ライター/伊豆グルメ研究家。東京の編集プロダクション勤務を経て、2005年から地元伊豆でフリーランス・ライターとしてのキャリアをスタート。2014年より静岡県熱海市を拠点に移して活動中です。47エッセイでは、四季折々の伊豆(たまに箱根)の風景や食を中心に、あまり観光ガイドに載らないようなテーマを、ゆる~くご紹介していきます。