エッセイ

47のシアワセを追いかけて

江戸の昔を思いつつ、走って巡る東京の旅

新宿の都庁前から町並みを抜けて浅草・雷門を目指し、スカイツリーからの東京タワーを見上げつつ銀座の真ん中をスパートして東京駅でゴール!
まさに東京の見どころをつなげたこのルートは、21年10月に予定されている東京マラソンのコースです。通常マラソンや駅伝のコースは名所や見どころをめぐることが多いもの。

2021年5月現在、東京オリンピック自体がどうなるかわからない状況ですが、思えば最初に想定されていたマラソンコースは、国内外にアピールしたいトーキョーのスポットを巡るルートでした。しかし紆余曲折あってマラソンは札幌でやることになったのも、だいぶ昔のことのよう……。

おっと、話がコースアウトしてしまいましたが、本題に戻りましょう。ジムのランニングマシンもよいですが、戸外を走る気持ち良さは格別。そんなとき走るコースを選ぶのも楽しみのひとつです。東京で、楽しみながら効率よく、自然を満喫できるのが、かの有名な「皇居ラン」です。信号がないのもありがたい。

皇居を囲む1周5キロのルートは以前から知られていましたが、東京マラソンが始まった2007年頃からランナー人口が一気に増えたといわれています。
都心に勤める人が仕事帰りに走ったり、あるいは走るためにわざわざ訪れる人も多く、荷物を預けたり、帰りにシャワーを浴びることもできるランステーション(通称、ランステ)が多いのも皇居ランならでは。

前置きが長くなりましたが、元スポーツ少女(いつの話?)の私も運動不足を痛感していました。思い立って皇居ランにチャレンジしたのは、コロナ前のとある秋の日のことでした。

ネットの情報をもとに東京メトロ東西線の竹橋駅周辺に行ってみると、小さな休憩スペースに準備運動をする人や走り終えて休憩をとる人などがたくさん。そして驚くようなハイスピードで飛ばしている人もいれば、意外とのんびりペースの人もいて、これならいけるだろうとおそるおそる走り始めました。

竹橋から行くと、橋を渡ってすぐ右には東京国立近代美術館と国立公文書館、左には深いお濠の向こうに石垣がそびえています。もちろんお城はありませんが、在りし日の江戸城に思いを馳せながら走っていると、ゆるやかな登り坂も苦になりません。

そうそう、走り始めてすぐに気づくのは、コース中に何人ものお巡りさんに出くわすこと。ポリスボックスも多数あり、条件反射で(怪しい者ではありません)とばかり“真面目な市民ランナー”の顔をこしらえてしまうのはなぜなんでしょう。

桜並木の続く千鳥ヶ淵の交差点を左折すると左にある瀟洒な建物がイギリス大使館。やがてコースで最も西に位置する半蔵門まで行くと一気に視界が開け、壕の深まりの向こうに青々とした皇居の緑が目に入ります。なんといってもここが一番の絶景ポイント!
この爽快感から、私は皇居ランにはまった気がします。

桜田壕の雄大な眺めに心奪われつつ三宅坂を下りていくと、右には正倉院を模して作られたという国立劇場、重厚なたたずまいの最高裁判所、そして国会議事堂の特徴的な屋根がチラリと垣間見え、やがて視線の先に桜田門がみえてきます。

桜田門(写真)は警視庁の本部庁舎の向かいにあり、ここをスタートにする人も多いポイントですが、江戸城の風情を最も間近で感じられます。外側の高麗門からその奥の渡櫓門までは枡形になっていて、緻密な石組みの風情も味わい深い!

門を入ると皇居外苑が広がっています。内堀通りの向こうにビル群がそびえ、一瞬でタイムスリップしたような気持ちに。

内堀通り沿いの直線を一気に加速すると、ビル群の合間に東京駅、左には壕のそばに建つ巽櫓が通る者を見張るようにそびえています。このあたりコロナ前には皇居の見学に訪れた外国人観光客がたくさん歩いていたものでしたが、ああそれすらも懐かしい……。

そして、いよいよ!
風になびく柳の葉に時折頬をなでられながらのラストスパート。楠木正成とともに「勤皇の忠臣」とされる和気清麻呂像のある竹橋駅そばの広場をすぎたらゴールです!

春には桜、秋にはもみじで知られる皇居。内部には田んぼや果樹園、桑畑まであるといいます。天皇陛下が執務に従事している吹上御所では、事前申し込み制の一般見学会もあるそう(令和3年度はコロナのため中止)。

都心の真ん中でこんなに自然が感じられて、コースとしてもほどよくアップダウンがあり、名所を走る楽しみも得られて運動不足解消にもってこい。のんびりペースの私は1周30~40分ほどですが、それもちょうどいいんですよね。
ああ、これを書き上げたら今日も走りに行こうかな。

プロフィール

杉浦美佐緒

愛知県出身。カメラマン・編集者を経てフリーライター。旅をはじめ、美容・健康・癒し・ライフスタイル全般を幅広く手がける。好きな食べ物は熊本の馬肉、京都のサバ寿司、仙台のずんだもち。憧れの旅人は星野道夫。旅のBGMは奥田民生の「さすらい」~♪

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