世界の地元メシ
森のくまさん

世間では、冬眠前の腹を減らした熊が里に下りて、民家にまでうろつくニュースが、毎日、出ていますね。さて、そんな熊のニュースを見ながら、あ、私も過去に、熊に出くわしたことがあったな………という、大事な情報が脳の格納庫から引きずり出されてきましたよ。カナダのね、バンフにあるレイクルイーズってところの知人の家に、何カ月か居候していた時のお話です。
アメリカをうろついていた時に、知り合った森番みたいな仕事をしている夫婦と仲良くなり、カナダに行ったことはあるの?と聞かれたので、ないと答えたら、彼らが帰国するついでに招待してくれたので、ノコノコついていったときのことです。
森の入口付近にある、頑丈そうな岩と丸太で作ったログハウス状の巨大ロッジが彼らの家で、その近くにはとても有名なホテルがあったぞ。レイクルイーズはいつも、どんな時でも、美しいエメラルドとサファイアの色が湖の中で混ざっていて、そこに山の強い日差しや、夏でも突然降って来る雪が降り注いでいて、動く絵画みたいだったな。
彼らは早朝から森の点検に出かけるので、私は7時ごろに起きて少し湖の周りを散歩してから、部屋か、近くにあるホテルで朝ごはんをするのが日課だった。湖の周りは特に何もないので、だいたい30分くらいで引き返すんだけど、ある時、もう少し行ってみようかと進んだら、そこに・いた・熊が。
大人の熊で、でかい。そして、黒い。別に怖くはないけど、びっっっくりする。本当にびっくりする。普通に、ベリーをもぐもぐ食べていて、めっちゃこっちを見たけど、ベリーがいっぱいあるので、そっちの方が大切だったらしく、顔をフイってそむけて食べることに集中してくれていた。季節が5月頃だったから、今話題になっているような熊の心境ではなかったらしい。
でも一応、背を向けずに、こっちは目をそらさないで後ずさりしながら、お食事中の熊がめっちゃ小さくなってから、全速力で走ったよ。ご夫婦に聞いたら、わりと良く出るって話で、珍しくはないらしい。その日の夜、雨が降って、次の日の朝の散歩に出たら、ぬかるんだ地面が熊の足跡だらけだったので、本当に、普通のことらしいな。
そもそもホテルも近いし、人と野生動物が共存することに、お互いに慣れている国だからなのか、あの時の熊の態度は、まさに「自分とは関係ない人と、偶然出くわした人の態度」そのものだったと思う。ああいう関係性が、いつか日本の山林地域でも成立するくらい、自然を大切にしなければならないね。
知人のロッジで食べるご飯は、毎日、焼いたポテトとステーキの繰り返しだけど、肉そのものが美味しかったので満足だった。デザートには、バニラアイスに、森でとれるベリー(熊が食べてたやつ)をのせて、さらにメープルシロップをドバドバかけて食べるのが楽しみだったな。
あとね、私は結局食べなかったんだけど、お肉をメープルシロップに漬けてから焼く、日本の照り焼き味みたいなのが家庭料理としてあって、美味しいらしい。今度やってみようと思う。
プロフィール
ほしのしょうこ
25年ほど雑誌・WEBマガジンなどで記事を書き散らしているフリーライター。 副業でWEBデザイナー崩れもしている。趣味は散歩と仕事。重度の放浪癖があり世界を鞄一つで浪漫飛行していた。現在は頑張って日本に定住中。




