世界の地元メシ
女子力高いジャック推奨「ドイツのケーキ」
在イタリア時に、ドイツ人ゲイのお友達・ジャックの家に1ヶ月ほど遊びに出かけたことがある。イタリアとドイツ間という、まるで東京/長野くらいの距離感で、毎晩2人で電話でギャーギャー、当時付き合っていた男の悪口を言ってたら「ちょっとお、ヨーロッパって電話代高いし、あたし来週から休暇とるから、ドイツまできたら?」と言われたのでノコノコ行ってきました。
ジャックは見た目が元フィギュアスケート選手のジョニー・ウィアーみたいなので一緒にいて目の保養になり、たまに真性女子としてその美しさに軽く落ち込み、でも同衾しても絶対に何も起きないという点でも非常に安全な存在だった。
ジャックは内側が女子なので、会話の内容はほぼ女子会と同じ。彼氏の話と恋愛の話、美容とファッションの話と恋愛の話が延々と続く。お話のお供はドイツワインとお菓子かケーキ。ケーキがドイツはとても美味しかった。私は普段、ほとんど甘いものは食べないので、旅の途中でもお菓子を買うことなど滅多になかったのだが、ドイツでは自分でもびっくりするほどケーキを食べた。
「ドイツってケーキ美味しいのよ、アメリカのとは大違いでしょ? 大きくても軽くて新鮮だから食べても全然太らないわよ」
と言って最初に出して来たのが、チーズケーキだったのだが、その大きさが、ティッシュの箱半分くらいの体積がある。で、これがノーマルのサイズなのだそうな。食べてみると、確かにふわっと軽いスフレ状になっているのだが、日本にあるスフレチーズケーキと違うのは、これが生であるってこと。つまり、焼いてない。そして、新鮮な乳製品が持つ独特の香りがして本当にペロリと平らげられる。
その時まで私が知っていたドイツ風の食べ物というのは全て、どっしり・ごっつい印象の重たいものが多かったのだが、そういうものは少なくとも私が滞在したフランクフルト東地域では、一度も食べたことがなかった。どこのケーキ屋でも、フワッ・フレッシュ・乳脂と果実ソースの甘みだけ、という組み合わせ。食べているうちに口の中に消えていく感じのもので、サワークリーム風味・ヨーグルト風味・なんかしらのチーズの風味で、ソースとの組み合わせも含め、多種多様にあった。
これは家でも作れるらしく、スーパーにいくと手作りセットみたいなのが売っていた。ジャックと一緒に作ってみたのだが、本当に簡単。買って来た好みのフレッシュチーズに、ミルクまたは液状ヨーグルト、もしくはクリームみたいなものを適量ミキサーに入れて、スーパーで買ったチーズケーキの元みたいなパウダーを入れてガーッと回したものを紙で作ってあるケーキ型(なんでもいい。それこそ、ティッシュの空き箱でいい)に流し込んでそのまま冷やせば、あら不思議、なぜかフンワリした ケーキができてしまう。
タルト台もフレッシュなソースもたいていパン屋かスーパーの片隅に売られているので、それを使ってもよし。この時は、ジャックの家に自生していた木苺とミントを、やはり適当にミキサーにぶち込んでガーッとしたものをジャバジャバかけて食べた。そう、本当に、1人でティッシュの箱1/2くらいの分量はイケルのである。最初に「ワインと」と書いたが、ドイツの白ワインはとても香りと甘みが強いキリッとした物が多いので、自然な甘みしか持たないこのチーズケーキとの相性が抜群であった。
一月の滞在中、ジャックはドイツで有名な食べ物、ソーセージ料理、白アスパラ料理、ハム料理、黒いパン各種、ドイツで使うソース各種などを高級店からB級グルメまで一通り案内してくれたけども、その中でもやっぱりゴツいものはなかったんだよね。
このセレクトは今思うと、女子力の高いジャックのアンテナに引っかかったものだけだったのかもしれない。思い出せは、プレッツェルなんかも「塩分取りすぎは美容に悪いから」とか言いながら、プレッツェル表面にくっついていた岩塩をむしり取ってくれていたので、私の体験したドイツ料理は、全てドイツのオネエおすすめのものだったのかも。そういやあ「ハムとワインの組み合わせは顔がむくむからやめときなさいよ」とスーパーでサラミの袋を棚に戻されたことがあったな。
ちなみに一月も滞在していたので、その間にジャックのママが突然訪ねて来たことがあり、私とバッタリ。息子にとうとう女の子の彼女ができた!と大勘違いをして半泣きで大喜びしながら帰って行ったんだけど、あの後、あれはなんて説明したんだろうな。このエッセイ書くので、懐かしくて久しぶりにジャックにメールしたら、まだジャックは女子のままだったよ。
プロフィール
ほしのしょうこ
25年ほど雑誌・WEBマガジンなどで記事を書き散らしているフリーライター。 副業でWEBデザイナー崩れもしている。趣味は散歩と仕事。重度の放浪癖があり世界を鞄一つで浪漫飛行していた。現在は頑張って日本に定住中。