エッセイ

世界の地元メシ

Sweet Sixteen

はじめて1人で外国に行ったのは16歳のとき、アメリカだった。短期留学という形で、少し早めの夏休みを取り、2ヶ月間、シアトルに行ったんだ。

若くて元気で未来のことを肯定しかできない16歳にとって、アメリカでのすべての体験が衝撃的だったな。いやー、年を取るってホント………。

ホームステイ先のフィールズ家は、地元で手広く不動産業をやっているパパ、専業主婦のママ、そして女3人男1人の子供たち。上の3人は成人して家を出ていて、家に残っているのは、同い年の末っ子長男スカイだけだった。

とても余裕のある家だったらしく、日本人の私がやって来るということで、炊飯器を買って待ってくれていた。アメリカ人なので脳内がアメリカンなのでしょう、どうみても弁当屋で使う一升炊きの炊飯器だったんだけどね。

生粋のアメリカ人の彼らは、炊いたご飯なんか食べたこともないのに、すごい歓迎ぶりだったなと、今になって思う。さて、短い間ではあったけど、一緒に暮らし始めてから、私は彼らの食文化に度肝を抜くことになるのだった。

はじめて一緒に学校に行く日(というか連れてってもらう日)、スカイの朝ごはんを見て、まず衝撃をうける。

えーとね、ラスクのようなものの上に砂糖とジャムを混ぜたものを乗せ、ポテトチップスを砕いたものを振りかけながら、それをコーラで食べていたね。

「ママに叱られないの?」って聞いたら、「……?別に?」と本当に不思議そうな顔をされた。ママも、スカイは偏食でね、朝はあれしか食べないからっていうんだけど、偏食が過ぎるだろ!

当時って、子供のころから親に「コーラ飲むと歯が溶ける」とか言われていたので、まず、朝からそんなにコーラを飲んで良いっていうのがカルチャーショックだったな。

翌日は、スカイの親友ダンが遊びに来て泊まっていった。ダンは見るからにガキ大将な体格と面構えだったが、うわさの炊飯器があるって聞いて、どっかから米20キロを調達してきてくれたので、優しいのだろう。

お米の炊けるニオイが強烈だったらしくて、結局、彼らは一口食べてギブアップしていた。フィールズ家のパパはお米が気に入ったらしく、私がお土産に持ってきた永谷園のお茶漬け海苔をふりかけて、ウイスキーのおつまみとして食べていたね。

ダンがそのお茶漬けを見て感化されたのか、次の日の朝、冷や飯にセブンアップをかけて食べていた。「コーラも試したけど、サイダー系の方がいける」と言い、スプーンで食べていた。うん、なるほどね、シリアル感覚ね、OH!YESという気持ち。

週末は、クラスの親たちも全員参加のウェルカムパーティーが開かれた。みなさん、持ち寄りなのだが、流行っていたのかな? ほぼ全員、持ってくるケーキのクリームが蛍光ブルーだった。映えるとかの感覚もないあの時代、ブルーってすごくない?

良くあるケーキミックスみたいなので作ってあるから、味は大丈夫なんだけど、食べ物に蛍光色を使うというのに、この国にワビサビ・シックは存在しないと、体でわからされた感じだった。

最近になって、ミント味のものを青に着色してある食べ物が日本でもお目見えするようになったけど、それを見たとき、40年遅れの時空を超えた衝撃波をうけた感覚がしたよ。

それから、学級委員をしていたエリーザという子が、カップヌードルがいかに美味しいかという説明をしてくれていて、そこで初めて私は、日清カップヌードルが日本製であることを知って、これまたびっくりしたのだった。あんなアメリカンな感じの食べ物が、日本製だなんて!!!

そして次の日、日航機墜落事故が起きて、当時のアメリカの主要な新聞の朝刊トップ1面がJALのニュースで埋め尽くされていた。単語がわからなくて、みんながゆっくり説明してくれているのを辞書で調べては、タイムラグのあるショックを受けたな。

私が不安がっているかもしれないと、フィールズ家の近所に住むパイロットやパーサーの人たちがたくさん来てくれて、ユナイテッドの機内で配られるという、美味しいお菓子をたくさん持ってきてくれた。

なぜかそのままホームパーティーとなり、彼らは1人1袋の機内用ポテトチップスを片手に、ガロンサイズの機内用アイスクリームを抱え、白ワインを飲みながら(たぶん機内用)、ジャグジー風呂に足をつけたまま、巨大な水鉄砲で通行人を狙撃して遊んでいた。

あと、大人も子供も100%、人の家の冷蔵庫を開けて勝手に中のモノを食べるというのにも、かなりの文化の違いを感じたなあ。

ちょっとつまむレベルではなく、たとえば半調理してあるグラタンとかを、勝手にオーブンに入れて焼いて食べるという鬼の所業なのだが、ママもパパも平然としているので、あるあるのようだ。

クラスメイトの日本人に聞いたら「ああ、やるよね」というので、どうやら普通のことの模様。そこの家では、冷蔵庫のフライドチキンを揚げて食べて帰っていく、謎の近所の人がいるらしい。ほんとアメリカってどうなってんの?と思ったのを思い出す。

とりとめなく書いたけど、16歳の忘れられない思い出。フィールズ家以外の話もあるので、次回に続くよ!

プロフィール

ほしのしょうこ

25年ほど雑誌・WEBマガジンなどで記事を書き散らしているフリーライター。 副業でWEBデザイナー崩れもしている。趣味は散歩と仕事。重度の放浪癖があり世界を鞄一つで浪漫飛行していた。現在は頑張って日本に定住中。

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