一時期、私の妹が在エジプトだったことがあり、放浪中に、エジプトにしばらく滞在していたことがあった。当時、妹も私も別々のホテル暮らしだったので、朝から待ち合わせて近所のカフェに行き、日がな一日おしゃべりをしながらダラダラと食事をするのが日課だった。

とはいっても、文化的には男尊女卑の強い中東エリア、外国人の、しかもアジアの女性が2人だけで朝っぱらから毎日毎日カフェにいるのは、あまり良いこととは思われないらしく、よく、エジプト語で知らないおじさんに長時間の説教をされたりしていた。

我われは当時、もう30代も半ば近かったんだけど、アジアンは若く見えるのだろうね。多分、20歳前後の躾けのなっていない日本のお嬢さんが2人、大した目的もなく海外でプラプラ遊んでいるっていう風に映って、将来を心配してくれたのだろう。まあ、年齢以外の部分は正解なのだが。

で、エジプトの食事なのですが。私は海外にいても、あまり日本食が恋しくなったりはしないタイプなのですが、中東はちょっと食文化が違いすぎて、久しぶりに出汁の味が欲しいと思ったりした国だった。

味は美味しいんだけどスパイスがね。もう、何を食べてもスパイスが入っているのですよ。辛くてもスパイス、塩味でもスパイス、甘くてもスパイス、すっぱくてもスパイス………と、何はなくともスパイスが入ってる。

いやもう、普通の何でもない、一切何にも香らない、素材だけのものを食わせてくれよ！と思ってサラダ頼んでも、ドレッシングでスパイス、と。

そんなスパイスまみれの生活を送っているうちに、だんだんと鼻の奥にもスパイスが浸潤してきたのか、2か月もするころには、なんだかビルの壁からも、地面からも、ホテルの布団からもスパイスが香ってくるような気がしていた。

さっさと別の国に移動すればいいんだけど、長い放浪の途中で久しぶりに家族がいるんでね。それなりに面白可笑しくて、楽しいわけですね。なのでまあ、また数か月が経過するわけですよ。

でも、毎日、スパイスがスパイスなわけで、結局のところ、スパイスに根負けする感じで、だんだんと食が細くなっていく感じになってしまいました。

食べられない上に暑いので、最終的に夏バテっぽくなりましてね。もう全く、食欲がわかないんだよね。そんな私を見て、私たち姉妹に常に説教たれてたおじさんが教えてくれたのが、メロンとヤシの実ジュースだった。

どちらも、日本のジューススタンドみたいなところで売ってるもので、ペットボトルなんかに詰めてもらえる。メロンはエジプトでは最も安い果物なので、1リットルのペットボトルに詰めてもらっても、当時で200円しないくらい。

日本の高級なメロンジュースとは違い、ハネジューメロンと水だけの味。うっすらと甘くて、疲れ切った体に染み込む感じでとてもよかった。もともと冷たいものをあまり飲まない国らしく、なんでも常にぬるまっこいので、自室に持ってかえって、ぬるーいメロンジュース飲んでました。

そして、ヤシの実ジュースも良かった。こっちは最初、見た目が濁った水みたいな感じで、頼むのに抵抗あったのでなかなか飲まなかったんだよね。でもメロンジュースとヤシのジュースは両方飲めって言われてて。

説教ジジイがいうには、本当にヤシの実の中身の水分と、ヤシの実のぺろぺろしたところをミキサーしてるだけだと。ラマダン明けや、砂漠で身体が疲れたらこれと、メロンジュースを交互に飲むのが一番効くんだ！と力説するので、根負けして飲んでみた。

砂糖とか入れてないよ！ってスタンドの人が言ってたけど「ホントかよ」と思うくらい甘い。しかし、よく考えたら一杯20円くらいとかなので、砂糖なんか入れてたら合わないから、本当なんだろう。

どっちも毎日ペットボトル持って通ってがぶ飲みしていたら、何日かしたら突然体力が戻って元気になったので、今でも、私の中では神の飲み物みたいな位置づけになっている。

さて、日本に帰ってきてからも、ちょっと夏バテっぽい感じや、汗のかきすぎによる渇きを感じたら、すぐにジューススタンドを探して、メロンジュースを2杯くらい飲むようにしてる。

でも日本のメロンジュースって、高級メロンで高いよね！っていう話を知り合いにしたら「普通に、ポカリ飲めばよくね？」って言われた。

………ですよね。