世界の地元メシ
マリトッツォ
ここんとこ、マリトッツォが流行っているな。コンビニでもスーパーでも、わずかな隙間があればマリトッツォが詰め込まれて陳列されている。これ、流行り始めの頃に食べてみたんだけど、マズイ………。イーストの香りと半端な脂肪分の生クリーム、そして日本のきめ細やかなパン生地の食感とが絶妙に合わない。と、いうことでその後、お店で見ても買うこともなかったのですが。
イタリア人の知り合いが「お店で出すもの試食してよ」っていうので顔を出したら、店頭に小さめのマリトッツォがサランラップにくるまって並んでいた。朝ごはんもやってるらしくて、その時に出すからっていうマリトッツォと炒りすぎのコーヒーのセットで食べたら、結構いけた。あれ?こんな美味しかった?って顔していたら「日本のはねえ、きれいすぎるよねえ」って言いながらオーナーがニヤニヤしている。
それで、味が似ていたので思い出したのだが、私が当時住んでいたローマのアパートの近くに、すごく人気のある有名な小さいパン屋さんがあって、そこにこんなん売ってたな。ただ、なんかもっとブリオッシュとしてのキメが粗く、もっとモゴモゴした食べ物だった気がする。その菓子パンのようなものがマリトッツォていう名前だったかはわからない。なぜかというと、ローマっ子は何でも「コンパンナ」(と、生クリーム!)だったから。
ジェラート頼んでもコンパンナ「生クリームつけて!」、
ティラミスにもコンパンナ!、
おい、レモッチェッロだぜ?それ、でも気にしないでコンパンナ!、
すでに生クリーム乗ってんのにコンパンナ!
と、とにかく何でもかんでも生クリーム盛りたがるので、割とイタリアに行って最初のほうに覚えた地元の言葉が「コンパンナ」だったくらい。
だから、そのパン屋でも、売ってるほとんどの商品が、何かが生クリームと一緒にギッチリ挟まっている系のパンだったんだよね。当時すごく好きだったので、何度も早起きして買いに走っていたのが、生クリームが少ししょっぱくてパンの上に振ってある砂糖がカラメリゼしてあるやつ。苦しょっぱくて、高脂肪な生クリームの甘さが、強めの火で雑に焼かれたブリオッシュ生地に調和して美味しかったなあ。あれ、また食べたいなあ。
結局、試食しに行った店は、コロナの影響で業態変更することになっちゃったから、奇跡的においしかったマリトッツォは幻になっちゃった。そして、今、これを書いていてハッとしたんだけど、コンパンナだったから、あの店は人気だったのか‼
プロフィール
ほしのしょうこ
25年ほど雑誌・WEBマガジンなどで記事を書き散らしているフリーライター。 副業でWEBデザイナー崩れもしている。趣味は散歩と仕事。重度の放浪癖があり世界を鞄一つで浪漫飛行していた。現在は頑張って日本に定住中。