エッセイ

世界の地元メシ

スペインのアホなスープ

この記事を書いている時は、世界がコロナでてんやわんやしている時だったのですが、イタリアとスペインの流行り方のあまりのすごさに、ふと、イタリアに居たときにスペイン人の友人に教わった「病気になった時に飲むスープ」のことを思い出した。

マルコとはイタリアでは二番目に付き合いの長い友人なのだが、私はかなり長い間、彼が実はスペイン人だということに気が付かなかった。

日本人に、スペイン訛りのイタリア語なんてわかんないんだよね。

で、なぜ知ったかというと、私が結構な重たい風邪にかかり、その上、シェアしていたアパートメントの全メンバーが不在だったので、一人、熱でうんうん言いながら寝ていたところに心配したマルコがお見舞いにきてくれて、その時のちょっとした身の上話で知ったのだった。

マルコはマドリッド出身の設計士さんだった。当時、スペインで知り合い、好きになった日本人女性を追いかけてローマまでやって来て同棲していたが、彼女の親が病気だというので日本に帰ってしまい、その後も、遠距離恋愛をしながらこの町で彼女の帰り待っているのだという、なんともまあロマンチックな男だった。

そのマルコが「スペインで風邪の時にはこれなんだ~♪」と出してくれたのがニンニクスープなのだが、スペインではアホスープと呼ばれている。アホは、スペイン語でニンニクなので日本人にとっては面白い名前になっているのだ。

地方や家庭によっていろいろ作り方はあるらしいが、おおよそレシピはこんな感じ。

用意するもの:にんにく・水かコンソメスープ・家にある調味料・パン

  1. ニンニクを一人頭3粒くらい、スライスするかガラス瓶の裏でぶっ潰してからコップ1/4くらいのオリーブオイルで良い香りがするまで炒める。
  2. もし手元にカッピカピになったパンがあれば、それも適当に叩き壊して鍋の中にぶち込み、何となくクルトンぽくなるまで炒めて、ニンニクともどもきつね色にする。
    パンはなくてもいい。
  3. チキンスープがあればそれを、無ければ水+コンソメを一人頭350mlほど(あっちの国のガラスコップの平均的なコップ一杯らしい)ドバーっと入れる。
    辛いのが好きな人はここで赤唐辛子のパウダーをお好きなだけ。
    マイルドな辛さがお好きならばパプリカのパウダーを、これもお好きなだけスプーン大匙でバッサバッサ入れる。
  4. 最後に、溶き卵または生卵を入れて沸騰したら出来上がり。
    どんぶりっぽい入れ物に入れて召し上がれ。

熱で大汗をかいているので、適度な油分と強い塩気がハッキリと味覚を刺激するし、ニンニクの香りが鼻づまりでもわかるので美味しいと感じられる。

パプリカや赤唐辛子が身体を温めるし、軽く煮込まれたパンと卵で栄養もあり、同時にオリーブオイルが荒れた喉と胃を守ってくれるという、想像以上に優秀な病人食だった。

一口ごとに「おお、私は良くなっていく」と思えるスープだったな。でもまあ、その国の人に提案されなければ、風邪の時に食べようとは微塵も思わなかっただろう。

元気な時なら、仕上げにチーズや大量のパセリみじん切りを入れてもいい。日本のカツオ出汁で作っても美味しく出来ます。

キッチンテーブルでスープを飲みながらしばし、ロマンチック男・マルコの想い人の話をしていたんだが

「へえ、で、もうどのくらいその人のこと待ってんの?いつ帰ってくるの?」

と聞くと

「うーん。わかんない。もうかれこれ1年半ちかく音信不通だし、手紙もメールも返事来ないんだよね。最近は電話しても繋がらないんだよ。あ、ねえねえ、これなんて言ってるか教えてよ」

と言って渡された携帯から流れるのは「この番号は、お客様の都合により、現在……」のやつだった。こういう内容の電話だよって説明すると

「……ってことは、彼女はお金がないんだよね、きっと。困っているってことだよね。僕、お金送ってあげたほうが良いよね?」

とアホなことを聞かれたのだが、あの時は高熱だったから、なんて答えたかは覚えていない。マルコはコロナで無事だったかな。

プロフィール

ほしのしょうこ

25年ほど雑誌・WEBマガジンなどで記事を書き散らしているフリーライター。 副業でWEBデザイナー崩れもしている。趣味は散歩と仕事。重度の放浪癖があり世界を鞄一つで浪漫飛行していた。現在は頑張って日本に定住中。

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