エッセイ

47のシアワセを追いかけて

外湯パラダイスを浸かり倒す兵庫の旅

日増しに冬の気配がしのびより、温泉が恋しくなる季節です。
2021年11月、懸念される第6波はまだ来ていません……。

それはさておき、温泉ソムリエになってから全国津々浦々に出かけていますが、日本有数の温泉街、開湯1300年を誇る城崎温泉に行ったのは数年前のことです。

京都から山陰本線に揺られ、城崎温泉駅に降り立つと、駅舎の入り口に赤いのれんがかかっています。駅を背にして右にある外湯「さとの湯」の手前には下駄がズラリ。

そしてロータリーには飲泉場。これはまるでウェルカムドリンクではないですか!

気分が上がったとことで駅通りを冷やかしながら大谿川方向へ向かっていくと、道中にはカニ料理のお店や直売所が並んでいます。11月から3月まで松葉ガニが解禁されるシーズンには、カニを目指してくる人であふれるといいます。

大谿川沿いには風情のある柳並木。中心部の1㎞ほどの間に7つの外湯が並んでいます。

まずは予約していた旅館にチェックイン。しかし、ここ城崎温泉に限っては外湯巡りが鉄板中の鉄板。私もさっそく浴衣に着替えて町へ繰り出します。

明るいうちに小手調べとばかり、こじんまりとして風情のある「柳湯」(子授安産)、その昔、道智小人が八曼荼羅経を唱え続けて湯が湧き出し、城崎温泉のはじまりともされる「まんだら湯」(一生一願の湯)の露天風呂でほっこり。上がったら、いったん旅館に入ってひと休み……。

落ち着いた頃に夜の通りに繰り出すと、浴衣姿の老若男女が柳並木をさざめくように歩いています。夜の川面に明かりがきらめき、なんとも幻想的な雰囲気に包まれます。

コロナ前のことですから外国人も多いし、女子旅、カップル、みんな楽しそう。からんころんと下駄の音が響きます。

そして、ハイカラなタイル模様がローマ風呂のニュアンスをも醸し出す「地蔵湯」(衆生救いの湯)、見事な庭園を眺められ、露天風呂に雅びな香りが漂う「御所の湯」(美人の湯)、外湯の真ん中に位置し、江戸時代の医師、香川修徳が「天下一」だと評した「一の湯」(開運招福の湯)の洞窟風呂と、立て続けにめぐります。

ほてりをさましながら、そぞろ歩きで宿へ帰るのも一興。

あっというまに深い眠りに落ち、翌朝は目覚めるとさっそく外湯めぐりの続きです。外湯の中で一番奥にあり、朝7時からやっている「鴻の湯」(夫婦円満・不老長寿)も開湯伝説があるところ。足をケガしたコウノトリが傷を癒やしていたことから温泉が見つかったそうです。

合間にお土産店や城崎文芸館をめぐり、いよいよラストの七湯目。
ふりだしに戻る、とばかりに駅前の「駅舎温泉 さとの湯」(ふれあいの湯)へ。モダンで解放感あふれるお風呂を楽しんだら、これで外湯パラダイスはコンプリート!

これら7つのお風呂は雰囲気もそれぞれ違います。いわくも効能もさまざま。でも、実はひいている温泉はすべて同じなんです。

なんだろう、この居心地良さと連帯感……。

なんと城崎温泉は、「駅が玄関、旅館は客室。町を貫く柳並木が廊下で、外湯が大浴場、そして売店にお食事処」と、町全体を一軒の温泉旅館に見立てられているのだとか。

こうした連帯感の源泉は、1925年の北但大震災でこの地は壊滅的な被害を被ったものの、その後に「共存共栄」の精神で再建されたという歴史ゆえのもの。まさに、気持ちをひとつにしてつくられた温泉街といえるのです。

なんだか、コロナ後の今、これからを考えるにもぴったりではないですか。
大地の恩恵でたっぷりと癒やされたら、未来を拓く力もうみだされるはずだから。

プロフィール

杉浦美佐緒

愛知県出身。カメラマン・編集者を経てフリーライター。旅をはじめ、美容・健康・癒し・ライフスタイル全般を幅広く手がける。好きな食べ物は熊本の馬肉、京都のサバ寿司、仙台のずんだもち。憧れの旅人は星野道夫。旅のBGMは奥田民生の「さすらい」~♪

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