世界の地元メシ
ドミニカ共和国 「バナナのカラメル」
その昔、マルコポーロ がこの島国を「黄金の島 ジパング(日本)」と間違えて地元民を虐殺しまくったため、生粋のドミニカ人というのは存在せず、今では周辺の島々から流れてきた人たちが国民となっているサルサとコーヒーの国、ドミニカ共和国。
都心の一部は米国系の投資で整備されているが、一歩、国道から外れたら、そこは発展を放棄した呑気な南国の楽園生活が何百年も前から延々と続いている。それもそのはず、年中あったかくて雨が適度に降ってれば、果物なり放題の家畜増え放題。海に囲まれてるから魚も取り放題。別に頑張らなくてもいいんですよ。こういう人生もありだよね。
全体的に食事は、日本人の口には合わないものが多い。牛豚鶏などの家畜はいるものの、そもそも家畜の概念が薄いため基本は野良。また、屠殺権もないため、気軽に「今日、ダンスパーティーするから、みんなで牛でも食う?」というノリで、近所の人たちと必要分量だけシメて食べるというスタイル。一応、スーパーマーケットもあるんだけどね。
ただ、地元民も肉の衛生面は全く信用していないので、野良牛をシメてもスーパーで買ったものでも、どんな肉もウェルダンを遥かに超越した焼き加減で、噛みごたえはほぼ「草鞋(わらじ)」。そして塩胡椒しか味付けをしないので、日本人の味覚には無味に感じる。
ただ、肉食文化の人は肉の味をアミノ酸として美味しいと感じるらしいので、彼らは美味しいと感じているらしいのよね。そんなわけで、この島に足を踏み入れてからこっち、この国ではバナナとパッションフルーツばっかり食べていましたな。
バナナと言っても、私たちの知ってる甘い完熟バナナではなく「バナナのカラメル」という副菜のようなもの。
青いバナナを薄くスライスして、塩胡椒で軽く焼いたものに薄く砂糖をまぶしてカラメリゼするだけの食べ物で、お店でも家でも必ず肉の横に添えられていた。これがうまい。
バナナは完熟させていないとセロリから太い繊維だけをとったような食感で、青っぽくてシャクっとしてるんですが、それにオイルと塩カラメルがかかってちょっと焦げてパリっとしていると想像してくれ。大人な味で、美味しい。ラムやテキーラを飲みたくなる味です。
店や家庭によっては焦げフライにしてパリパリにしたものに塩砂糖が混ざったパウダーかけてるところもあって、この副菜は基本は薄く甘苦しょっぱいものらしい。
なんていうか、フランス料理のフランスパン、イタリア料理のフォカッチャ的な位置付けでデフォルトで出してくるんだよね。どのスタイルでも美味しいし、お腹がいっぱいになる。
そんなことを友人のドミンガに話したら「じゃあ、うちでも作ってあげるわ」と、家に招待してくれました。
私が常々、肉がビーチサンダルのように硬いと文句を言っていたのを知っていたからか、ハムステーキを焼いてくれて、横にバナナカラメルがてんこ盛りで添えてある。
「私、家だとこのくらい食べるの、おほほ」 と笑いながら出してくれた。
ドミンガは個人的にこれが好きで、皿いっぱい焼いて食べることもあるんだそうな。
作り方を隣で見ていたけど、本当に単に縦長にスライスしてフライパンで焼いて、塩胡椒して砂糖を上から振りかけ、焦げるまで焼いてるだけだった。
ドミンガがいうには
「冷蔵庫は停電が多いし、電化製品もすぐ壊れて信用ならないのよ。作っておいてもマッシュポテトやパンはすぐ腐るし、蟻もすごいからさ。バナナは安全で美味しい」
と言われて、窓辺をよく見たら、蟻がせっせとなんか運んでいた。ちなみにドミンガの家はこの国では中上流クラスの鉄筋マンションでエアコンもあり、窓もサッシなのに蟻がどこからか来ていた。
このバナナは日本には売ってないような気がするので、再現は難しいかも。あまり甘くないバナナを選んで日本でも作ってみたことあるけど、やっぱり甘みがあるし、しっとりネットリしすぎてお菓子の部類になってしまう。あのシャク!とした柔らか繊維とカラメルがバリっとした感触にならなかった。
電化製品が信用ならないっていうのは、実際、数ヶ月暮らしてわかったが、とにかく停電が多い。1日に「バチーン」と音がするブレーカーごと落ちる停電が何度もあるので電化製品がすぐにバグるから、ものすごく単純な機械じゃないと壊れちゃうんだよね。
ちなみに、水道もしょっちゅう止まるので、トイレ(大)を流す用の水を一人バケツ二杯手配しておく自己責任っていうのは、ドミニカあるある。
プロフィール
ほしのしょうこ
25年ほど雑誌・WEBマガジンなどで記事を書き散らしているフリーライター。 副業でWEBデザイナー崩れもしている。趣味は散歩と仕事。重度の放浪癖があり世界を鞄一つで浪漫飛行していた。現在は頑張って日本に定住中。