エッセイ

五感で感じるエッセイ『イン・ラケ'ッチ!』

線路の向こう側―等々力渓谷(とどろきけいこく)―

日本列島が南北に長いように、東京は東西に長い。一口に東京と言っても、西側は一級河川や野山、広い公園や農地緑地など、数多くの自然が残っている。一方、東側は、言わずと知れた日本の中枢、文化とテクノロジーの最先端。コンクリートで固められた摩天楼の隙間を、人々が行き交う。
そんな東側の23区内に、知る人ぞ知る豊かな自然があるのをご存じだろうか。

渋谷駅から電車で約20分。東急大井町線等々力(とどろき)駅で下車して、わずか徒歩3分。23区内で唯一の渓谷、等々力渓谷に着く。
渓谷の入口にあるゴルフ橋は、昭和の初めに旧下野毛、等々力村に広大なゴルフ場があったことに由来するという。
橋のたもとから階段を降りると、谷沢川が多摩川に向かってさらさらと流れ、木漏れ日がキラキラと遊び、静寂の中、野鳥が飛び交う。
まさに別世界だ。

川に沿って散策路が続く。
しばらく行くと、「等々力渓谷三号穴」の案内がある。これは、古墳時代末期から奈良時代にかけて作られた横穴墓のうちの一つである。はるか昔から、この辺りに人が住んでいた証拠だという。
この付近は古墳群で、散策路から脇に逸れた近くに、東京都指定文化財の野毛大塚古墳もある。

等々力渓谷の名所の一つ、「不動の滝」に到着。
ここはパワースポットと呼ばれ、斜面の上部には不動明王像が祀られている。
壁面から絶え間なく水が湧きだし、二匹の龍の口から清らかな水がこんこんと流れ落ちている。この滝の音が「轟いた」ことから「とどろき」「等々力」と地名がついたそうだ。

「不動の滝」の横にある階段を上って行くと、等々力不動尊の境内へと続く。
その昔、真言宗中興の祖、興教大師の夢に、山伏の祖である役之行者(えんのぎょうじゃ)が作った御不動様が現れた。関東に霊地があると告げられ、訪れたところ、夢と同じ渓谷があり、錫杖で岩をうがつと滝が流れ出した。この場所に御不動様を安置したのが始まりだという。
等々力不動尊の対岸には、書院建物と日本庭園があり、渓谷散歩の休憩もできる。

不動尊の境内を抜けて表に出れば、再び、車が行き交うコンクリートだらけの街並み。さっきまでの景色は夢だったのかと思うほど、一瞬で世界が変わる。
旅というと、私たちは遠くに目が行く。だが、未知なる世界は距離ではないのだ。
ひょっとしたら住んでいる町の線路の向こう側に、気づかなかったパワースポットがあるかもしれない。
この春の「旅」はご近所巡りというのも、案外、新鮮かもしれない。

それにしても今シーズンは本当に寒かった。寒がりの私は、休日、ほとんど家から出なかった。そんな私は、まず、ご近所から始めよう。
ああ、春が待ち遠しいなあ。

プロフィール

白川ゆり

CASA DE XUX代表/アロマハンドセラピスト/アロマテラピーアドバイザー
2009年~ マヤの聖地を巡るワールドツアーに参加。パレンケや先住民が住むラカンドン村等、数々のマヤの聖地を訪れる。
また、国内外のマヤの儀式において、火と香りで場と人を浄化する「ファイヤーウーマン」を務める。
2011年~ マヤの伝統的な教えを伝えるワークショップを開催。
マヤカレンダーからインスピレーションを得たオリジナルアロマミストシリーズ「ITSUKI」を制作。

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