エッセイ

恋しいアジア!お腹もまんぷく美味しい食紀行

体を温めてくれる南国アジアの温活料理!

寒さ本番!日々温かい料理で体を温める食の”温活”は、この季節にぴったりの活動です。鍋料理をはじめ、日本には体を温めてくれる料理がたくさんあります。実は、南国アジアにも熱々の定番料理が数多くあるんですよ。暑い国でなぜ?と思うでしょうが、外の暑さに反して、建物内や電車の冷房温度設定が低くてとっても寒い!そのため、体を冷やさないよう南国の人たちも温活に必死なのです。私も実際に体感しましたが、本当に寒くて上着が必須アイテムです。

さっそく、日本でも食べたくなるような熱々で体がポカポカしてくる温活料理をご紹介しましょう。

【肉骨茶/シンガポール】
漢字だけみると、「えっ?これって料理?!」と驚かれるかもしれません。「肉骨茶」と書いて”バクテー”と読みます。シンガポールやマレーシアで食べられている中華系の料理で、スペアリブ(豚肉)の漢方スープのことです。最近では、俳優のディーンフジオカさんが愛してやまない料理として、テレビ番組で紹介されて話題になりました。

この料理の主役はスペアリブではなくスープです。温活のポイントは、ニンニクとコショウがたっぷり入った熱々のスープ。ニンニク&コショウのピリッとした刺激がクセになるおいしさなのです。スープの温かさが体内に浸透して、体がポカポカしてきます。食べ方としては、スープと肉を別々にいただきます。スープを飲みながら、合間に骨からツルンと外れるほどに柔らかく煮込まれたスペアリブを中国醤油につけて食べるのです。実は、初めて食べた時にびっくりしたことがありました。それは、バクテー屋さんでは、スープが減ってくるとどんどんつぎ足してくれるのです。まるでわんこそばのように、飲んでは入れての繰り返し。これには驚きましたが、「もっとくださ~い」って思わず言ってしまうほどのおいしさなのです。

シンガポールで食べられているバクテーは、中国・広東省からの移民が作った料理が始まりとされていて、潮州料理の特徴である素材の味わいを生かした料理です。朝食メニューの定番として広まり、起きたばかりの体に負担のかからないスープと働くエネルギーを蓄えるスペアリブが相性ぴったり。日本でも朝食に取り入れたら、一日がんばれるんじゃないかしら。

【サテ・チュルップ/マレーシア】
日本で居酒屋メニューの定番といえば焼き鳥。実は、東南アジアにも「サテ」という焼き鳥に似た串焼き料理があります。通常は甘く味つけしたピーナッツソースをつけて食べるのですが、マレーシアの南部、世界遺産の街マラッカには、サテの鍋バージョン「サテ・チュルップ」が名物になっていて、人気店が軒を連ねているほどです。

人気店のひとつに入ってみると、サテがたくさん並んでいました。具材は、鶏肉をはじめとする肉類、きのこや青菜の野菜類、臓物や練り物まであって、ざっと30種類はあるのではないでしょうか。サテ・チュルップとは、串刺しされた具材を鍋の中に入れて楽しむ料理なのです。自分の選んだ串の具材に火が通るのを待って食べる様子は、まるでフォンデュのよう。温活ポイントは、ピーナッツたれのスープ。ナッツ特有の香ばしさに加えて、唐辛子に生姜、八角などが香り高くてピリリとした刺激が食欲をそそります。スープを飲むわけではないのですが、具材に絡まって、口の中にも刺激が充満するのです。ここで食べる時の注意点、”二度つけ禁止”。まるで大阪の串揚げみたいですが、食事のマナーは世界共通なのですね。

サテ・チュルップは、地方によって名称が変わります。マレーシア北部のペナン島では「ロクロク」という名に変わり、チリやピーナッツソースをつけて食べるのです。串に刺しているから食べやすいし、具材のアレンジもしやすい。大勢で鍋を囲んで食べるとすごく楽しいです。実はこの冬日本では、ひそかに「串おでん」が流行っているのをご存じですか?もちろん、おでんの具すべて串刺しです。初めて見た時はマレーシアがなつかしく思ったほど。もしかしたら、サテ・チュルップも日本で流行るかもしれませんよ。

【狗仔粉/香港】
またまた怪しい漢字が出てきましたね。狗仔粉(ガウザイファン)は、香港発祥の料理で、豚骨出汁に干しエビの効いた米粉麺料理です。甘辛い2種類の大根漬けのトッピングが良いアクセントになっています。格付けレストラン本『ミシュランガイド香港』にある安価で食べられる”ストリートフード部門”でピックアップされるほどの注目フードなんですよ。

気になるのがまるでうどんを短くしたような麺。料理名にある”狗”は犬という字で、犬のしっぽのような形をした麺という意味になります。漢字だと分かりにくいですが、なんかかわいいですね。濃厚なスープに絡まった麺が口の中に飛び込んでくるとその食感にノックアウトです。しっかりと麺が煮込まれているのでトロントロンで熱々、まさに温活ポイントの麺といえるでしょう。腹持ちが良く、大根漬けとの相性も抜群。麺を食べているだけで、汗が出てきますが体がリセットされた気分になりますよ。私が伺った店「十八狗仔粉」は24時間営業なので、朝食にも良いし、豚骨ベースながら夜食に食べても罪悪感がないくらい翌日も胃もたれ無し。麺の量が三段階に分かれているのも嬉しいポイントでした。

実はこの料理、1960年代に香港で流行っていたんですって。それをこの店の店主が、幼少時に食べた味を再現して復活。B級グルメのテッパン料理として若者からお年寄りまで人気となっているのです。ミシュラン本のストリートフード部門に選ばれる料理は、”手軽に食べられる料理”という意味なのですが、この店では本当に路上で食べます(笑)。カジュアルな香港食べ歩き旅には最高の一品です。

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寒い国だけが温活料理の恩恵を受けているわけではない、というのが今回の旅の感想です。スープ類は体を温めるのに最適で、日本人は出汁でそのおいしさを発見することができますが、海外ではスープにニンニクやスパイスを加えることで、よりうま味のあるおいしさを発見することができます。アジアは日本人にも口に合う料理が多いので、温活しながら旅をするのも楽しいかもしれませんね。

プロフィール

伊能すみ子

アジアンフードディレクター/1級フードアナリストアジア料理を得意とし、旅をしながら食の楽しさを探究。メディアを中心にアジア食品の提案、店舗リサーチ、食文化コラム執筆など幅広く活動。また、ごはん比較探求ユニット「アジアごはんズ」では、シンガポール担当として、東南アジア4カ国の食べ比べイベントを不定期で開催している。

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