春夏秋冬「ゆる伊豆」だより
小さな港町・内浦三津地区を巡る
沼津市内浦三津地区と言って反応するのは、よほどの旅好きかアニメファンぐらいだろう。
2016年のテレビドラマ「時をかける少女」ではロケ地になったので、ご存知の方がいるかもしれない。今や某アニメの聖地として若者で賑わっているが、じつは大人の旅心を満足させてくれる港町であることを、ここで声高に主張しておきたい。
漁業のほかは、山の斜面を利用してつくるみかんなどの柑橘類が名物。
内浦漁協と水族館「三津シーパラダイス」「あわしまマリンパーク」のほか、旅館やホテルが数件。平安時代前期より鎮座と伝わる「氣多神社」や、沼津市の有形文化財「大川家長屋門」、あの太宰治が名作「斜陽」を執筆した数寄屋造りの宿「安田屋旅館」といった趣のある建物がある。
昔ながらの小さな雑貨店、魚料理の美味しい食堂や60年代で時を止めたようなレストランが並び、小さなビーチの横には遊覧船が発着。堤防では、のんびりと釣りを楽しむ人が見られ、のどかな風景を彩っている。田舎の港町の魅力を凝縮したような街並みが、不思議と旅情をくすぐるのだ。
この地区は、狭い範囲にクオリティの高い飲食店が集まっていることも特徴。
漁協直営の食堂「いけすや」をはじめ、「やまや」「とさわや」など、魚料理の名店には県内外からグルメが訪れる。食後には、「しーらかんすCafe」の看板メニュー、シーラカンス型のプレスドパンケーキはいかがだろうか。2018年3月にオープンしたばかりの店だが、形のユニークさと、21cmもあるボリュームたっぷりのパンケーキが評判を呼び、あっという間に人気店となった。たい焼きのような型で焼き上げられたパンケーキにはバナナ入りと、桜えび(とチーズ)入りの2種類があり、バナナ入りはパフェにもできる。
また、かき氷専門店「えびな」の、ミルクエスプーマがけの「かき氷」もおすすめだ。シロップはすべて自家製。近隣の農家で作られたフルーツを使ったシロップが評判。地元・内浦産の寿太郎青みかんで作ったシロップは甘酸っぱくてさわやか。反対に濃厚な味わいの函南町産マンゴーのシロップ、お隣りの伊豆の国市産いちごを使ったシロップなど、果実のみずみずしさを味わうことができる。
お土産には、「和洋菓子 松月」の「寿太郎みかんどら焼」「寿太郎みかんパウンド」を買うべし。地元・西浦の寿太郎みかんを使った大人気商品で、お昼ごろで完売してしまうこともあるという。イートインも可能なので、同店自慢のケーキをぜひ食べてみて欲しい。また、古い民家を改築した建物の「cafe善吉」は、カフェ好きにぜひ立ち寄ってもらいたい1軒。ふわふわのシフォンケーキと、一杯ずつ丁寧にハンドドリップでいれるオーガニックコーヒーの組み合わせに、感激することうけあいだ。
首都圏から日帰りで訪れることもできる沼津市内浦三津地区は、JR東海道本線沼津駅からバスで約35分。西伊豆に位置しているので、大海原に沈む夕陽の美しさも楽しめる。一日休みができたなら、ちょっと足をのばして訪れてみてはいかがだろうか。
プロフィール
小林ノリコ
伊豆在住フリーランス・ライター/伊豆グルメ研究家。東京の編集プロダクション勤務を経て、2005年から地元伊豆でフリーランス・ライターとしてのキャリアをスタート。2014年より静岡県熱海市を拠点に移して活動中です。47エッセイでは、四季折々の伊豆(たまに箱根)の風景や食を中心に、あまり観光ガイドに載らないようなテーマを、ゆる~くご紹介していきます。