春夏秋冬「ゆる伊豆」だより
伊豆牛の威力、ハンパない。
フリーランス・ライターとして本格的に再始動して約半年が過ぎた。初心に帰り「どんな取材もどんとこい!」と、ジャンルを問わず依頼を受けているが、伊豆は観光地ということもあり、仕事の大半はグルメ系の取材で占められている。
ご多分に漏れず知人から「毎日、美味しい料理が食べられるのでしょう? うらやましい~」と言われるけど、グルメ系取材は見かけより断然、ハードでへヴィなのだ。
和・洋・中・エスニックとまんべんなく取材できれば試食も飽きないが、「1冊まるごとデカ盛り飯!」とか「スイーツ大全集!」なんていう特集になると、料理を撮影しているだけで満腹中枢が満たされる始末。フリーランス・ライターは一に体力、二に努力の職業だとつくづく思う。
じつは私、肉や魚がちょっぴり苦手。つい先ごろまで取材していた雑誌の特集は何と「肉の美味しいお店」だった。とても不安に感じていたけれど、取材先は(当然だけど)本当に美味しいお店ばかりで、肉料理に対するイメージが180°変わってしまうほどだった。
そのきっかけの一つが、伊豆の国市大仁にある「ひらい精肉店」で扱う「伊豆牛」。伊豆牛はこの精肉店が独自に作り上げたご当地銘柄で、販売もこの店のみという希少な肉だ。テレビ番組や全国販売の雑誌でも紹介されるなど評判が高い。
自社牧場があるのは、澄んだ空気と良質な水に恵まれた伊豆の国市浮橋。肉質の良い雌牛に限定し、仔牛の頃から生育環境はもちろん、飼料選びや配合、与えるタイミングにまで気を配り、手をかけて育てていると言う。肉は食味が良く、噛むたびにジュワ~っとうま味があふれ出してくる。どんな料理にしても美味しいが、塩とコショーで焼き、仕上げにフライパンの鍋肌に醤油を一滴垂らすというシンプルな調理法が一番のおすすめ。中伊豆産のおろしたて本ワサビを包んで食べると、「これが最後の晩餐でもいい……」と思ってしまうくらい最ッ高にうまいのだ。
その伊豆牛を手軽に味わえるのが、伊豆牛を使ったメンチカツやコロッケ。なかでもメンチカツは完売必至の超人気商品だ。肉はミンチにしない程度に包丁で細かく刻まれ、サクサクのキャベツが食感を高める。食べ応えの良い具材とあふれ出す肉汁が奏でるハーモニーの心地よさといったら! こんなお店と出会えるのなら、苦手なジャンルでもきっと大丈夫……とその瞬間、贅沢な悩みが一気に吹っ飛んだのだった。
プロフィール
小林ノリコ
伊豆在住フリーランス・ライター/伊豆グルメ研究家。東京の編集プロダクション勤務を経て、2005年から地元伊豆でフリーランス・ライターとしてのキャリアをスタート。2014年より静岡県熱海市を拠点に移して活動中です。47エッセイでは、四季折々の伊豆(たまに箱根)の風景や食を中心に、あまり観光ガイドに載らないようなテーマを、ゆる~くご紹介していきます。