エッセイ

五感で感じるエッセイ『イン・ラケ'ッチ!』

岡山のウラ

姫路城が白い外観から白鷺城と呼ばれるように、岡山城は黒い天守閣の美しさを形容して、烏城(うじょう=「う」はカラスの意味)と呼ばれる。岡山を代表する日本名城百選の美しい城だ。

だが、今回の旅の目的はここではない。
もう一つの名城、鬼ノ城(きのじょう)。
鬼城山(きのじょうざん)を丸ごと要害とした、桃太郎伝説の発祥とも言われる鬼の城だ。

鬼ノ城へは、岡山駅から吉備線(通称・桃太郎線)に乗り、約30分。服部駅で下車。公共の交通機関がないので、予約していたタクシーに乗り込み、15分ほどで「鬼ノ城ビジターセンター」に到着。ここには、休憩室や展示室などが併設されている。
そこから徒歩で10分ほど行くと、復元された鬼ノ城 西門が見えてくる。

カッコイイ!
映画のセットみたい!(その褒め方は間違っているかも知れないが)
そして、異国感がたっぷり。
それもそのはず、この城は、百済の王子、温羅(うら)一族の居城だったといわれている。
温羅一族はこの地(吉備)を治め、製鉄の技術を伝え、領民とも友好関係にあったというが、全国統一を目指した大和朝廷は、民に乱暴を働き困らせたとし、温羅を滅ぼした。

土の城壁を辿っていくと、どこからか聞こえてくるサラサラという音。
それは、風に吹かれて城壁からこぼれ落ちる土の音だった。
それが聞こえるほどの静けさ。
何もない。誰もいない。
眼下に、瀬戸内海まで続く、広大な平野が見渡せる。
ここに城を築いた意味を深く理解する。

門の上にカラスが一羽。
まるで、太古の昔から、ずっとそこで見張り番をしているかのように。
ここは、時間が止まっているのかもしれない。
古代の物語の主人公になった気分で、しばし、思いに耽る。

私たちが触れる「歴史」と呼ばれるものは、勝者の「歴史」であり、それが真実とは限らない。歴史という意味の英語、ヒストリーは文字通り、history 勝者(彼)の物語(ストーリー)だという話を聞いたこともある。
駅の待合の看板に、「…温羅は、本当は、この地にとって大切な道具だった鉄を伝えた心優しい王子だった、ともいわれている」と書いてあった。
東北の蝦夷同様、朝廷にまつろわぬ者は「鬼」扱いされる。だが、地元の人たちは本当のことをそっと後世に残す。

続いて、日本三大稲荷のひとつと言われる、「最上稲荷」(さいじょういなり)(正式名称 最上稲荷山妙教寺)に向かう。
入口に立ち、唖然とした。
お稲荷さんと言えば、赤い鳥居、という私の思い込みが、のっけから打ち砕かれる。

ナンデスカ、コレハ・・・。

異国情緒あふれる、というのを通り越し、全くの異国ではないか!
ギリシャのサントリーニ島のようにも見え(イメージです)、
中東のモスクのようにも見える。
広い境内に入ると、突然、スピーカー越しに大音量のお経が聞こえてきた。
・・・確かに、お寺だ。
中に進んでいくと、今度は見慣れた鳥居が並ぶ。
・・・確かに、神社だ。
神仏習合とはこういうことか。

例えば、奈良の三輪山のように、山そのものがご神体という場所はいくつかあるが、最上稲荷山は山そのものが「神社」、山そのものが「寺」だった。
境内から山頂へと上っていく中で、これでもかというほど、至る所に石像と鳥居が続く。
そして、登る、登る。ひたすら登る。

こんな山の上に、いったいどうやったら、こんなに岩を並べられるんだー!
畏怖。もう、畏怖しかない。

最上稲荷が神仏習合なら、倉敷にある阿知(あち)神社は神仏分離。分離前は、妙見宮と呼ばれていた。渡来人、阿知一族が定住したことに由来して、地名が付けられ、分離に際し、その地名を社号にしたという。

確かに中国地方は、その名の通り、中国=大陸に近い。渡来人がたくさんやってきたことは想像に難くない。だが、ここまで渡来人の痕跡があるとはびっくりである。瀬戸内海に面した穏やかな地、岡山は、巨大な磐座と国際色豊かな国だった。

そして、歴史系だけではない。
倉敷駅から徒歩10分。突如として、胸おどる「倉敷美観地区」が現れる。街のあちこちにおしゃれな工夫がなされ、路地のひとつひとつに、キュンとする小さなお店がひしめいている。
美しい! 四方八方が美しくて、シャッターを切る手が止まらない。
「岡山、いいなあ」
と、すれ違った二人連れの会話が聞こえた。
そう、「いい」のだ。
伝統とモダンが絶妙なさじ加減で溶け合い、何だか足元がふわふわするほどの高揚感。
まさに、アガる。

地域に根付きながら、洗練されたおしゃれ感。
古代から異文化に触れてきたおしゃれDNAだろうか。
製鉄という新しい技術を持ち込んだ異邦人のウラさんと、それを受け入れ発展させた地元の皆様。
きっと、今も繋がっている。

国産ジーンズの発祥の地 児島地区や、日本の夕陽百選「鷲羽山の夕陽」等々、まだまだ行きたい場所がたくさんある岡山の旅。次はいつ来ようか。
ウキウキした気持ちを持ち帰ろうとした帰路。
濃霧で、帰りの飛行機が飛ばなかった。
名残を惜しまれているものだと、勝手に理解した。
また、来ます。

プロフィール

白川ゆり

CASA DE XUX代表/アロマハンドセラピスト/アロマテラピーアドバイザー
2009年~ マヤの聖地を巡るワールドツアーに参加。パレンケや先住民が住むラカンドン村等、数々のマヤの聖地を訪れる。
また、国内外のマヤの儀式において、火と香りで場と人を浄化する「ファイヤーウーマン」を務める。
2011年~ マヤの伝統的な教えを伝えるワークショップを開催。
マヤカレンダーからインスピレーションを得たオリジナルアロマミストシリーズ「ITSUKI」を制作。

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