エッセイ

五感で感じるエッセイ『イン・ラケ'ッチ!』

近くて遠い場所

目の前には東京駅がドンと構え、毎日何万人もの乗降客と買い物客でごった返す。もうすぐ東京マラソンが開催されるが、ここでは一年を通じて、皇居ランナーと呼ばれる人たちが、お濠の周りを黙々と走っている。

だが、一歩中に入ると、そんな俗世間とは無縁の圧倒的な静けさが漂っている。
ここは、近くて遠い場所。
森の中の聖域、皇居(=宮殿)である。 宮内庁では、語頭にアクセントを付け、「キューデン」と呼ぶそうだ。

フランスのヴェルサイユ宮殿やイギリスのバッキンガム宮殿等々、諸外国のきらびやかさとは対照的に、日本の宮殿は簡素で厳かだ。

今回私が訪れたのは、参観事前許可制の皇居吹上御苑(御所)である。 この日の参観者、総勢160名余り。アジア系観光客と日本人高齢者の集団に囲まれた私。若干、苦笑い。

広大な敷地内を男性ガイドさんに引率されて回る。
歴史を語る石垣の横を通り抜ける。築城にあたり、全国から献上された大きな石に各藩の家紋が刻み込まれている。

どこから見ても美しいその姿から「八方正面の櫓」と呼ばれる「富士見櫓」、「宮内庁庁舎」、そして、一度はニュースで見た事があるあの場所、お正月の一般参賀で皇族の方々がお目見えする「長和殿」(ちょうわでん)に到着。

もっと、高い場所だと思っていたが、目の高さの位置だった。意外と近い…。

「長和殿」を後にし、正門鉄橋(てつばし)(=通称「二重橋」)を渡り、後ろを振り仰ぐと、京都伏見城の一部を使用したと言われる「伏見櫓」が見える。

そこから折り返して、宮中晩餐会などが催される「豊明殿」へと向かう。玄関先でのお見送りやお出迎えの映像を目にした事がある、ここもニュースでおなじみの場所だ。
「…ああ、ここなのね!」
と、あちこちで日本人参観者のつぶやきが聞こえる。

そして、「山下通り」を下ってゴール。あっという間の一時間だった。
ちなみに、「山下通り」とは、毎年皇后陛下が蚕を育てていらっしゃる「紅葉山の下の通り」という意味だ。

ここには山まであるのかと、しばし呆然とする。

吹上御苑を出て、東御苑に向かった。こちらは、ほとんどが欧米の外国人観光客だった。
庭園内には白梅が満開だった。日本を象徴する花は桜だが、寒風に耐え、静かに佇むように咲く梅の花もまた、日本人の奥ゆかしさを体現しているようで美しい。

東京オリンピックを控え、これまで以上に、和スィーツや和雑貨が注目を浴びている。そんな今だからこそ、是非、皇居の見学をお勧めしたい。
日本人にはアイデンティティの再発見になるし、海外の方にはオリジナルの日本を感じてもらえるいい場所だと思う。
ここには、過去の遺物ではなく、長い時を経て、今なお現存する生きた歴史がある。

大手門から外に出ると、内堀通りをたくさんの車が行き来していた。一気に時間の流れが加速して、そのギャップにくらくらした。

とても遠くから帰って来た気がする。今年の「旅始め」である。

プロフィール

白川ゆり

CASA DE XUX代表/アロマハンドセラピスト/アロマテラピーアドバイザー
2009年~ マヤの聖地を巡るワールドツアーに参加。パレンケや先住民が住むラカンドン村等、数々のマヤの聖地を訪れる。
また、国内外のマヤの儀式において、火と香りで場と人を浄化する「ファイヤーウーマン」を務める。
2011年~ マヤの伝統的な教えを伝えるワークショップを開催。
マヤカレンダーからインスピレーションを得たオリジナルアロマミストシリーズ「ITSUKI」を制作。

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