エッセイ

五感で感じるエッセイ『イン・ラケ'ッチ!』

大人のゼイタク

子どもの頃。
魚屋で切り身を買ってきた祖母が、調理前に祖父に見せて、 「これで〇〇円よ!この薄いのが○○円!」 と、騒いでいた。実際、その値段が高いのか安いのか、当時の私にはよくわからなかったが、とにかくおいしかったのだけは憶えている。

切り身は照り焼きになって、大根おろしが添えられ、食卓に並んだ。ほんのちょっぴり口に入れただけで、脂がじゅわーっとにじみ出てきて、ご飯が進んだ。うっかりすると、あっという間に食べ終えてしまうので、端のほうからちょっとずつ大事に食べた。

薄くて高価で幸せな、それ。
寒ブリである。

魚の宝庫にして「寒ブリ漁の聖地」と呼ばれる富山県氷見(ひみ)市で育った祖母は、おいしい魚のことをよく知っていた。

「寒ブリ」の有名産地は全国各地にあるが、最高峰は、富山湾(氷見漁港)で水揚げされた「ひみ寒ブリ(氷見ぶり)」である。今やブランド化され、3つの条件をすべて満たしたものだけが、その名を名乗ることができるという。その条件とは、「富山湾の定置網で捕れたもの」「氷見漁港で競られたもの」「重さ6kg以上で、形・質ともに良いもの」である。

11月下旬のちょうどこの時期、ブリ漁が最盛期を迎える。 「ブリ起こし」と呼ばれる北陸地方特有の風雪を伴う雷が鳴り始めると「ひみ寒ぶり宣言」が発令される。それから約3か月間、2月頃までが「ひみ寒ぶり」の旬となる。

ブリには、お馴染みのDHA(ドコサへキサエン酸)とEPA(エイコサぺンタエン酸)が多く含まれていて、動脈硬化・心筋梗塞・脳梗塞・糖尿病など、いわゆる生活習慣病の予防に効果が期待されている。豊富なビタミン類とともに、アルコールの分解を助けるナイアシンも含んでいるので、二日酔いの予防になり、酒の肴にもぴったりなのだ。

照り焼き、ぶり大根等々、楽しみ方は色々だが、一年で最もおいしいこの時期、是非ともお勧めしたいのが「ぶりしゃぶ」だ。そのままお刺身として食べられる鮮度のいいブリを使うのが大人の贅沢。肉と違い、いくら食べても胃もたれしないので、大人の胃袋に優しいのだ。

昆布出汁を沸騰させたら、弱火~中弱火にして、ブリを2~3回「しゃぶ、しゃぶ」する。あとは、ポン酢など、お好みのタレで召し上がれ。臭みが気になるなら、昆布出汁に酒やゆずの輪切りなどを入れてみるのもいい。たったこれだけ。簡単すぎるレシピだ。

「しゃぶ、しゃぶ」を繰り返すうちに、ブリの脂が出汁にしみてきて、どんどん濃厚になっていく。締めのご飯やうどんが格別なのはもはや言うまでもない。

街にイルミネーションがきらめき、年の瀬が見え始めたこの時期。

2019年は、日本人にとって、いつにもまして特別な年だったように思う。
改元からご即位にまつわる晴れやかな行事が続き、一方で、日本各地で大規模な自然災害も頻発した。台風19号関東上陸では、肌で感じる危機というのを初めて経験した。 そんな今年を振り返りつつ、「旬」を愛でながら親しい仲間と一杯。

「ゼイタク」とは、こういうことよ。

ご存じのとおり、ブリは成長するに従い、呼び名が変わることから「出世魚」と呼ばれている。今年、出世した人もしなかった人も、少し気が早いけれど、
2019年、お疲れ様でした。

プロフィール

白川ゆり

CASA DE XUX代表/アロマハンドセラピスト/アロマテラピーアドバイザー
2009年~ マヤの聖地を巡るワールドツアーに参加。パレンケや先住民が住むラカンドン村等、数々のマヤの聖地を訪れる。
また、国内外のマヤの儀式において、火と香りで場と人を浄化する「ファイヤーウーマン」を務める。
2011年~ マヤの伝統的な教えを伝えるワークショップを開催。
マヤカレンダーからインスピレーションを得たオリジナルアロマミストシリーズ「ITSUKI」を制作。

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