五感で感じるエッセイ『イン・ラケ'ッチ!』
偉大な豆 ― 大豆を通して考える
日本の夏の風物詩と言えば、花火、ブタの蚊遣り、そして、「ビールに枝豆」。
恥ずかしながら私は、ずいぶん大人になるまで、枝豆と大豆が同じものだとは知らなかった。青いうちは枝豆、茶色くなると大豆。ついでに芽が出た大豆は大豆もやしだった。
大豆という名は、大いなる豆、偉大な、りっぱな、という意味だそうだ。また、当て字で「魔滅(まめ)」と使われていたように、大豆には災いや病気などの「魔を滅ぼす」力があると考えられていた。魔よけ・鬼払い・厄払いのため、2月の節分に煎った大豆を撒く。
大豆は「畑の肉」と呼ばれるほど、たんぱく質が豊富なことは良く知られている。大豆たんぱく質は、必須アミノ酸がバランスよく含まれ、脂質、炭水化物、食物繊維、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、銅、ビタミンE、ビタミンB1、葉酸など様々な栄養素が含まれる。
確かに、「偉大な豆」である。
大豆を原料に、味噌、醤油、納豆、豆腐、がんも、厚揚げ、油揚げ、ゆば、きな粉、おから等々、日本食に欠かせない食材が生まれる。
しかし、国内での大豆の食糧自給率はたったの25%(平成27年 農林水産省より)。ほとんどを輸入に頼っている。さらに、サラダ油などの原料となる油糧用を含めた自給率でみると、わずか7%である。物凄い危機感を感じる。
「なんとかしなきゃ」と有志が立ちあがり、「大豆畑トラスト」というムーブメントが起こったのが、2000年代に入る直前の事だった。今で言う、クラウドファンディングの走りである。
「大豆畑トラスト」は、まず、全国にある休耕地等に出資し、大豆オーナーとなる。そして、農家の方と一緒に、種まきや草取りなどの農作業に参加し、収穫物の分配を受ける仕組みである。どの畑のオーナーになるかは、毎年選ぶ事が出来る。農作業は自由参加で、オーナーでなくても農作業のみの参加もできる(収穫物の分配はオーナーのみ)。
私が大豆オーナーを始めて、今年で10年になる。収穫高はその年によって違うが、だいたい2キロ程度の大豆が分配される。これを使って、手作り味噌を作る。材料は、大豆、塩、糀。たったこれだけで、本当においしい味噌が出来る。
味噌作りとは別に、大豆をプランターで育て、枝豆として食べる。これも、味が濃厚でとてもおいしい。
かつて味噌作りや醤油作りは、日本の家庭で普通に行われていた作業だった。
私たちの体は、口から入る栄養素で出来ている。
魚が、切り身で泳いでいると思っている子どもが少なくないと言われるが、そのことを私たちは笑えるだろうか?
牛や豚や鶏が、「生き物」から「パック詰めの食材」になる過程を、私たちはうまくイメージ出来るだろうか?
何を食べ、何を食べないのか、私たちの体を作ってくれる「生命」がどこから来て、どうやって体の中に入るのか、真剣に向き合う時期に来ている。
今年の夏は、暑い日が続いたと思ったら、梅雨が戻って来たかのように、低温で雨が続く。
どうか、秋の収穫に影響がありませんように。
全国の畑に思いを馳せる。
大豆に関わっていなければ、それは、もっとずっと他人ごとだったかも知れない。
人工物・加工物ばかりの暮らしの中で、大地と触れあう機会は不可欠である。大豆は、それを教えてくれた。体だけではなく、心にも栄養を与えてくれる、「偉大な豆」だった。
プロフィール
白川ゆり
CASA DE XUX代表/アロマハンドセラピスト/アロマテラピーアドバイザー
2009年~ マヤの聖地を巡るワールドツアーに参加。パレンケや先住民が住むラカンドン村等、数々のマヤの聖地を訪れる。
また、国内外のマヤの儀式において、火と香りで場と人を浄化する「ファイヤーウーマン」を務める。
2011年~ マヤの伝統的な教えを伝えるワークショップを開催。
マヤカレンダーからインスピレーションを得たオリジナルアロマミストシリーズ「ITSUKI」を制作。