エッセイ

五感で感じるエッセイ『イン・ラケ'ッチ!』

地底探検 滝観洞(ろうかんどう)

明治初期に発見され、昭和25年に開設された地底の迷路。
ここは、洞内滝日本一の滝観洞(ろうかんどう)だ。
岩手県気仙郡住田町に位置し、大理石からなる鍾乳洞は、総延長が3,635メートルまで確認されていて、その一部が観光洞として公開されている。東日本大震災の影響で、いまだ閉鎖されたままの洞窟もある中、滝観洞はびくともしなかったようだ。

入場料を払い、係の人から長靴とジャンパーとヘルメットという探検3点セットを受け取り身に着ける。
…すごくよく言って、地質学研究者のようだ。もしくは、工事現場か、炭鉱で働く人。 同行者たちと互いを見合って、思わず不思議な気持ちになる。

洞窟の入り口には、朱色の橋が架かっていて、「風恋橋」(かざこいばし)という幟が風に揺れていた。後から調べてみると、この橋の名前は、一般公募により地元の女子高生が付けたそうだ。
「想いを胸に風恋橋を渡り、天空から輝き舞う滝の雫を見れたなら願いが叶う」というお話があるそうだ。何だかとてもロマンチックなのだが、何しろ、私たちの格好は、「地質学研究者」。とてもロマンチックとはいえない。

橋を渡り、いよいよ洞窟の中へ。
一歩足を踏み入れた途端、一気に空気が変わる。
洞内は照明が完備されていて明るいが、まるで冷蔵庫の中のようにひんやりとしている。
年間を通して洞内の温度は15度ほどらしい。確かにジャンパーが必要だ。

(でも、ヘルメットと長靴っていうのはちょっと大袈裟だな)

そう思ったのは、最初の数分だけ。
低くなった天井に、ごつっ!と頭をぶつける。
気づけば、洞内のあちこちで、

がりっ! ごん! ずざっ!

と、ヘルメットの擦れる音が聞こえる。確かにヘルメットがなければ、洞窟を出る頃には血まみれかもしれない。舐めていてすいません。

大理石の足元は地下水の影響なのか濡れていて、つるつる滑り、足元に気を取られると、また頭をぶつける。特に危険な箇所には手すりもついているが、場所によっては、ほとんどしゃがむような格好で進む。まったく油断ならない。
だが、この不自由さが冒険心をくすぐる。

どんどん進んで行くと、白い看板が置いてあった。「八つ墓村のロケ地」と書かれている。
ここ?!ここで?! 40年前にここに撮影隊が入ったという事実に驚く。

さらに進んで行くと、岩棚に大きな観音像が鎮座していた。滝観洞観音である。洞内の安全と、入洞者の幸福を祈願して建立されたという。
やがて、ゴーゴーという音とともに突き当たりにみごとな滝が現れる。高さ60メートル、周囲が50メートルのドーム型に開けた場所に、天井の大理石の裂け目から落差29メートルの滝が流れ落ちている。「天の岩戸の滝」である。滝壺は地底湖になっている。「天の岩戸の滝」は、女流歌人柳原白蓮が命名したという。 とにかく、水の勢いに圧倒される。
ライトアップされた水しぶきは、きらきらと光りながら、容赦なく滝壺に落下し続ける。

天から降り注いだ雨が、大地に滲みこみ、それが地下水となって、流れていくのはわかる。でも、今、目の前で音を立てているこの水が、なぜ枯れないのか、自然の不思議さに、ただただ呆然とするばかりだった。

地上の暑さに疲れた私たちに、地下の肌寒さが心地よかった。
夏休みも後半。是非、おすすめしたいアンダーワールドである。

プロフィール

白川ゆり

CASA DE XUX代表/アロマハンドセラピスト/アロマテラピーアドバイザー
2009年~ マヤの聖地を巡るワールドツアーに参加。パレンケや先住民が住むラカンドン村等、数々のマヤの聖地を訪れる。
また、国内外のマヤの儀式において、火と香りで場と人を浄化する「ファイヤーウーマン」を務める。
2011年~ マヤの伝統的な教えを伝えるワークショップを開催。
マヤカレンダーからインスピレーションを得たオリジナルアロマミストシリーズ「ITSUKI」を制作。

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