五感で感じるエッセイ『イン・ラケ'ッチ!』
初めてのお伊勢参り
伊勢市駅に降り立つと、天気予報が伝えていた通り、気持ちいいほどのザーザー降り。
初めてのお伊勢参りは土砂降りの中での参詣だった。
ホテルに荷物を預け、用意してきたレインコートを着込み、雨の中、パシャパシャと出発する。
駅前から続く参道は、現代風のおしゃれな店が立ち並び、寄り道したい気持ちがウズウズしたが、グッと抑えて先を急ぐと、参道を抜けた信号の先、すぐ目の前が外宮(げくう)こと豊受大神宮(とようけだいじんぐう)だった。
伊勢神宮は正式名称を「神宮」(じんぐう)といい、山田原(やまだのはら)にある豊受大神宮<外宮>、五十鈴川の川上にある<内宮>(ないくう)こと皇大神宮(こうたいじんぐう)を中心に、別宮14、摂社43、末社24、所管社42があり、「神宮」はこれら125の宮社の総称である。
雨に濡れた木製の丸橋、「表参道火除橋」を渡り、境内へと進む。この橋の下には、防火のために作られた堀川が流れている。
外宮の鳥居の前に立ち、まず驚いたのは、その簡素さである。飾り気のない木造の鳥居が、スッと立っている。その簡素さは、外宮のすべてに共通していた。
朱塗りのピカピカした社殿も素晴らしいが、この飾り気のない潔さにかえって神聖さを感じる。
正宮<正殿>にお参りし、お作法に則って、多賀宮、土宮、風宮と、順にお参りしていく。
境内には、樹齢何百年,何千年かわからない巨木があちこちに立っていた。不思議と圧迫感を感じないのは、もちろん境内の広さもあるが、どこか人に寄り添うような優しさと安堵感があるからだ。実際、太い幹を両手で抱き締めている人をあちこちで見かけた。
外宮からバスに乗って約15分、内宮へと移動する。乗客はほとんどが観光客で、天気のせいか、空いていた。
内宮前に到着。外宮の厳かな雰囲気に比べ、とても活気がある。いかにも観光地といった雰囲気で、土産物屋が軒を連ね、観光バスが並ぶ。
外宮同様、神域に入る前に木造の橋(宇治橋)を渡る。その長さおよそ100メートル。この橋は、日常の世界から神聖な世界へと結ぶ懸け橋と言われている。その下を流れるのは、清流で有名な五十鈴川。全長20kmにおよび伊勢湾へと注ぐ。
宇治橋を渡り、右手に折れると、参拝する前に心身を浄める場、五十鈴川御手洗場(いすずがわみたらし)がある。川べりに人が集まり、並んで手をすすいでいた。だが、私はなぜかその列に加わる気になれず、ちょうど雨脚も強まってきたので、天に向かって両手を広げた。
これこそが浄化の雨だ。
もちろん、そんなことをしている人は誰もいない(笑)
雨が降り続いているせいか、境内は静かだった。それでも外宮の数倍の人出があり、正宮の前にはお参りの順番待ちの列ができていた。
外宮、内宮ともに、お参りをする正面に御幌(みとばり)という白い布がかかっていて、正面が直接見えないようになっている。そんな神社は初めてだった。やはり違うなあと感心する。
門前から延びるおはらい町の入り口に立ち、落ち着いた心が一気に沸き立つ。古い街並みに、心ときめくお店がひしめき合っている。その中には伊勢の名物「赤福餅」の本店もあった。「赤福餅」は五十鈴川の流れをイメージしていて、その形は流れる五十鈴川のせせらぎをかたどり、あんにつけた三筋の形は清流、白いお餅は川底の小石を表しているそうだ。
これまで何度も「赤福餅」を口にしてきたが、そんなことは全く知らなかった。この先食べる機会が来たら、川のせせらぎを思い出して味わおう。
そして。
今まさしく、五十鈴川の流れに耳を澄ませながらコーヒーを飲んでいる。ああ、贅沢。
開けて翌朝。晴れました!
まず最初に天の岩戸へ。ここは、名水百選にも選ばれた恵利原の水穴(えりはらのみずあな)の地。バス停から、ダム沿いの道をてくてく歩くこと20分。途中、後ろから来る何台かの車に抜かれながら、到着。
景色より先に、サアーッと流れ落ちる滝の音が耳に入る。段々になった斜面に、お社が、ひっそりと鎮座ましましている。手を合わせ、お参りしていると、後ろに気配を感じ、脇によけたが誰もいなかった。辺りには、水の流れる音と木々のざわめき。遠くで鳥の声。
異界感がハンパない。
天の岩戸を後にして、山の伊勢から海の伊勢へと向かう。
夫婦岩で有名な二見浦に到着。
海に面した二見興玉(ふたみおきたま)神社には、サンサンと日が差す中、たくさんの観光客が訪れていた。
ゴーゴーと吹き荒れる潮風に、マスクが飛ばされそうになって慌てる。
細長い境内にはあちこちにカエルのオブジェが置かれていて、これは、「無事カエル」「貸したものがカエル」など、縁起の良いゲン担ぎの意味があるそうだ。手水舎には、水をかけると願いが叶うといわれる満願蛙が置かれ、並んだカエルの口からサラサラと水が流れ出ていた。
帰りの電車まで時間があったので、出発のご挨拶をしに、再び、外宮へ。
夕方。閉門間際。
鳥居の縁に夕陽がチラチラしている。
正宮に着いて、お参りをしようとしたその時、ふわっと風が起こって白い布が優しく舞い上がり、中の様子がよく見えた。思わず、小さくため息が漏れる。
これは、ご褒美だと思った。神様、ありがとうございます。
古の昔から日本人の一生の憧れだった伊勢詣。
江戸時代、片道15日間かかったと言われる旅路を、令和の今、新幹線と特急を乗り継いで、4時間ほどで到着できるありがたさ。ここに至るまでに、どれだけの人の知恵と努力があったのだろう。それを思うだけで、ジーンとする。
自由に旅ができる幸福を噛みしめるとともに。
プロフィール
白川ゆり
CASA DE XUX代表/アロマハンドセラピスト/アロマテラピーアドバイザー
2009年~ マヤの聖地を巡るワールドツアーに参加。パレンケや先住民が住むラカンドン村等、数々のマヤの聖地を訪れる。
また、国内外のマヤの儀式において、火と香りで場と人を浄化する「ファイヤーウーマン」を務める。
2011年~ マヤの伝統的な教えを伝えるワークショップを開催。
マヤカレンダーからインスピレーションを得たオリジナルアロマミストシリーズ「ITSUKI」を制作。