エッセイ

春夏秋冬「ゆる伊豆」だより

想い出の「おやつパン」、その数奇な運命

全国津々浦々でご当地の「おやつパン(駄菓子パン)」が販売され、ちょっとしたムーブメントになっている。なかには、半世紀近く販売されている超ロングセラー商品も多い。もちろん、我が静岡県東部・伊豆地区にも、そんな「おやつパン」が存在する。

「のっぽパン」がその代表格だ。

「静岡県民のソウルフード」と呼ばれているが、中部・西部では、その存在すら知らない人が多い。厳密には「静岡県東部・伊豆地区民のソウルフード」なのである。長さ約34cmもある細長く焼き上げたパンのあいだに、ミルク風味のクリームやチョコなどいろんな種類のクリームがはさんである。今は改良されて口当たりがよくなっているが、当時のパンはお世辞にも絶品とは言い難かった。しかし、その駄菓子感の拭えない味(褒めてます)が、子ども心を惹きつけて離さなかったのだ。

パッケージに描かれているキャラクターは、三島市にある楽寿園(小さな遊園地と動物園がある三島市民憩いの公園)で、発売当時に人気者だったキリンがモデル。筆者もよく親に連れられてキリンを観に行った。今はもういないが、人気者の座はカピバラとアルパカがしっかりと継いでいる。

「のっぽパン」は、1978年に今はなき「ヌマヅベーカリー」という会社から発売された。当時は社会科見学コースの定番。見学終了後、児童一人ひとりに「のっぽパン」が配られたが、嬉しくてたまらず、下校途中ですっかり食べてしまった。それほどの人気商品だったが、会社の事業再編にともない、2007年に製造&販売が終了してしまう。その約1年後、ファンの熱烈な声に押され、沼津市に本社を置くベーカリーチェーン「バンデロール」が静岡駅ビルでの販売をスタートさせた。県庁所在地で販売されたことによって、新聞やテレビ番組に取り上げられるようになり、「のっぽパン」は「静岡県を代表するおやつ」の座に上り詰めてしまった。

こうして再び、地元ファンのもとにノスタルジックな味が帰ってきた。今では直営店のほか、県内東部・伊豆地区のスーパーやJR駅の売店、一部のコンビニでも買えるようになり、限定フレーバーの種類も増えた。でもやっぱり、元祖の「クリーム」がダントツだと筆者は思う。沼津市が舞台の大人気アニメ「ラブライブ!サンシャイン」とのコラボ商品も販売(静岡県内のみ)。陳列するやいなや、あっという間に完売するというお店も出ている。

余談だが、筆者は東京のメディア関係のお客様への手土産に、この「のっぽパン」を持参することが多い。必ず喜んでもらえる上に、なぜか打ち合わせがスムーズに終わるので、営業に「のっぽパン」は欠かせないアイテムになっている。県外の方に、こんなに喜ばれる「おやつパン」はめったにない。まさか、こんな形で……。
はからずも、私は故郷に救われていることに気づいたのだった。

プロフィール

小林ノリコ

伊豆在住フリーランス・ライター/伊豆グルメ研究家。東京の編集プロダクション勤務を経て、2005年から地元伊豆でフリーランス・ライターとしてのキャリアをスタート。2014年より静岡県熱海市を拠点に移して活動中です。47エッセイでは、四季折々の伊豆(たまに箱根)の風景や食を中心に、あまり観光ガイドに載らないようなテーマを、ゆる~くご紹介していきます。

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