エッセイ

春夏秋冬「ゆる伊豆」だより

「しおかつお」と「しおかつおうどん」

2月11・12日に静岡県富士市で開催されたご当地グルメの祭典『東海・北陸B-1グランプリ』で、西伊豆しおかつお研究会の「西伊豆しおかつおうどん」が最高賞のゴールド・グランプリに輝いた。

「しおかつおうどん」は、西伊豆にしかない伝統的な保存食「しおかつお」を使った「汁なしうどん」のような料理。
基本は茹でたてのうどんに、しおかつおの焼き身、ごま、ねぎ、鰹節などをふりかけ、トッピングに温泉玉子。隠し味に醤油を少量入れ、かき混ぜて食べる。盛り付けのスタイルや提供の方法は店ごとにさまざまな個性がある。

うどんをすすりあげると、「しおかつお」からにじみ出る、だしの風味と旨みが口いっぱいに広がる。温泉玉子のコクも手伝って食が進む。後味がさっぱりしているので、食欲のない時やお酒のシメとして食べる人が多いという。
2009年の発足以来、研究会メンバーがコツコツと活動を積み重ねてきた。結果、西伊豆地区をはじめ沼津や三島でも食べられる店が増え、地元以外での認知度も年々高まっているようだ。

私は研究会と直接の関わりはないのだが、「しおかつおうどん」の材料となる「しおかつお」とその加工商品を紹介する冊子を制作した際、「しおかつお」の美味しさと奥深さに大感激。すっかりファンになってしまった。そんな経緯もあり、西伊豆のご当地グルメがブレイクすることを願って、ひそかに応援していたのだ。

西伊豆田子地区は、鰹節の三大名産地のひとつ。かつては良質の鰹がたくさん水揚げされ、漁業で栄えた漁師町だった。
鰹を丸ごと潮に漬け込み、乾燥させて作られる「しおかつお」は、いわゆる乾干し塩蔵品。伝統的な保存食として江戸時代から作り続けられている。田子地区では正月に神棚へお供えし、三が日が過ぎると神棚からおろしてみんなにふるまう。食べ方は、お茶漬けやお吸い物の具、酢の物や焼き魚など。地元の人々の生活に密着した「郷土食」であり「伝統料理」でもある。

現代の食生活では減塩志向ということもあって、食べる人も食べる機会も減り、田子でもほとんど製造しなくなってしまった。現在、しおかつおの製造会社は3軒しか残っていない。

伊豆半島には「かつてのにぎわいは今いずこ…」という街がたくさんある。かつて栄えた街が衰退していくのは時代の流れであって、仕方ないことのだろうか。伝統ある郷土食や街のにぎわいを、自分たちの世代で途絶えさせてしまってもいいのだろうか。

「しおかつおうどん」は、ただ美味しいだけのご当地グルメではない。
「しおかつおうどん」を全国(ひいては世界)に伝えることによって、観光や地元の活性化だけでなく「郷土の伝統を未来に繋ぐ」ことにもつながっていく。
私が「西伊豆しおかつお研究会」を応援したい、もうひとつの理由もそこにある。

今回の「東海・北陸B-1グランプリ」での最高賞の獲得が、伊豆にどのようなインパクトを与えるのだろう。郷土の伝統を守り地域を盛り上げるのは、観光客でも観光業者でも行政でもない。地元の人々が当事者となって、本気で未来へ繋いでいかなければならないのだと思う。

プロフィール

小林ノリコ

伊豆在住フリーランス・ライター/伊豆グルメ研究家。東京の編集プロダクション勤務を経て、2005年から地元伊豆でフリーランス・ライターとしてのキャリアをスタート。2014年より静岡県熱海市を拠点に移して活動中です。47エッセイでは、四季折々の伊豆(たまに箱根)の風景や食を中心に、あまり観光ガイドに載らないようなテーマを、ゆる~くご紹介していきます。

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