五感で感じるエッセイ『イン・ラケ'ッチ!』
受け継ぐもの
マヤは、中米のユカタン半島に位置し、現在のメキシコ・グァテマラ・ベリーズ・ホンジュラス・エルサルバトルの5カ国にまたがり、高度な天文学や数学を用いたことで知られる古代文明である。ジャングルの中に、大小無数のピラミッドが点在し、発掘が追いつかず、未だ埋もれたままのものがたくさんあるという。なぜ、こんなにたくさんのピラミッドが建造されたかというと、同じ場所に長く留まると、土地が枯渇すると考えられ、周期的に点々と住む場所を変えていたからだと言われている。
その中で最も有名なのが、チチェンイッツアにあるク’クルカン(羽のあるヘビの姿の神様)ピラミッドである。春分の日と秋分の日の日没前に、真西から差し込む太陽の光が、ピラミッドの側面に細長い影を映し出す。この現象はク’クルカンの降臨と呼ばれ、その奇跡の瞬間を見るために、世界中から観光客が訪れる。
今からちょうど10年前、私はメキシコ領にあるマヤ遺跡を訪れた。それまでメキシコといえば、マフィア・拳銃・違法の薬など、ダークなイメージが先行し、なんとなく怖い国だった。だが、実際に訪れてみると、ユカタン半島はのんびりとした田舎町だった。主都メリダでは、観光客を乗せた馬車が石畳を行き交い、“カツカツ”という軽快な足音が夜まで続く。パトカーに乗った信号待ちの警察官が手を振り返してくれる。スーパーのレジに並べば、「お先にどうぞ」と、地元のおばさまが順番を代わってくれる。マヤの末裔たちは、穏やかで優しかった。
グァテマラとの国境にあり、船を使って辿りつく陸の孤島ヤシュチランは、映画で観た「天空の城ラピュタ」を思い出させた。静かなジャングルに植物と動物、そして、崩れかけた建造物が、混ざりあい、共存している光景が、あのラピュタそっくりに見えたのだ。ここが特別な場所だった事は、辺りに漂う「気」のようなもので分かる。澄んだ光が溢れ、カメラのレンズにはピンク色の優しい光が入り込み、被写体がはっきりと写らないほどだった。マヤ人たちは、ここを祈りの場所の一つとしていたのだ。
歴史の常として、侵略した側、勝った側の都合のいいように真実が書きかえられる。マヤもその一つだ。生贄の心臓を取り出して太陽に捧げた、未開の地の野蛮人とされたマヤ人。だが彼らは、太陽の運行を正確に把握し、26,000年という長い周期のカレンダーを用い、20進法を使用し、優れた文明を築いていた。それが分かったのは、マヤ文化の中枢を担う神官のほとんどが惨殺された後だった。
太平洋を挟んで、西の端の日本と、東の端のマヤ。言葉も気候もまるで違うのに、なぜかとても懐かしく感じた。
“イン・ラケ’ッチ!”
それは、マヤ語の挨拶の言葉。 「私はあなた、あなたは私」 その言葉には、「全ての過去も罪も受け入れ、赦す」というとてつもなく、広く深い愛を感じた。 マヤの末裔たちは、その想いを受け継ぎ、今日も優しい笑顔で生きているのだ。
早いもので、このコーナーを担当させて頂いてから、今回で20回目となった。マヤの20進法にちなみ、満を持してマヤの事を書かせて頂いた。 次なる目標は、20進法だと400回となる。 年4回更新しているこのエッセイ、400回目も迎えるには、
…90年以上かかるーーー!!
プロフィール
白川ゆり
CASA DE XUX代表/アロマハンドセラピスト/アロマテラピーアドバイザー
2009年~ マヤの聖地を巡るワールドツアーに参加。パレンケや先住民が住むラカンドン村等、数々のマヤの聖地を訪れる。
また、国内外のマヤの儀式において、火と香りで場と人を浄化する「ファイヤーウーマン」を務める。
2011年~ マヤの伝統的な教えを伝えるワークショップを開催。
マヤカレンダーからインスピレーションを得たオリジナルアロマミストシリーズ「ITSUKI」を制作。