エッセイ

五感で感じるエッセイ『イン・ラケ'ッチ!』

『神様からの招待状』/波照間島滞在記(1)

ここは、日本最南端の島、沖縄 波照間島。10月。
収穫が終わったサトウキビ畑が一面に広がり、「波照間ブルー」と呼ばれるソーダ水色の美しい海がある。小高い丘に登れば、360°島を一望出来てしまう、海の真ん中にポツンと浮かぶ島。
私と友人は、石垣島を拠点に離島巡りの旅にやって来た。だが、季節外れの台風に遭遇。船が欠航し、最初に訪れたこの島で、閉じ込められてしまった。次の船がいつ来るのかは全くの未定。取り敢えず、今夜泊まる民宿を確保し、友人と2人近所を散歩してみた。誰もいなかった。車もなく、ネコさえ見なかった。私たちは、小さな売店でアイスクリームを買い、近くの空き地で食べた。

とても静かだった。時間が、ふんわり、ゆっくり、流れていく。
いつ帰れるかもわからないのに、私たちは、とても満たされた気分になっていた。時間に追われないという事は、こんなにも、贅沢で、幸せなのだとしみじみ感じた。船が欠航しなければ、スケジュール通り、あたふたと島巡りをし、あたふたと日常に戻っていたことだろう。

この島には、何もなかった。そして、全てがあった。
これは、神様からの招待状なのかもしれない。

私たちが幸福感に浸っていると、道の向こうから、何か白いものがやって来た。ヤギだった。私たちはあっという間に4匹の子ヤギに囲まれた。みんな、のんびりとしたちょっと眠そうな顔をしている。かわいい、と思った刹那、1匹の子ヤギが、私めがけて突進し、持っていたアイスクリームのカップにその眠そうな顔を突っ込んだ。

「えーーーーーーーっ!」

驚いて落としたカップに、子ヤギたちが群がる。ひえええええええ。
やがて、完食した4匹の子ヤギは、誰もいない路地を仲良く並んで去って行った。
それは、悪夢のような一瞬だった。 (神様、これはサバイバルゲームへの招待状でしたか?)
なすすべもなく立ちつくす私たちの前を、湿った風が通り過ぎて行った。

つづく。

プロフィール

白川ゆり

CASA DE XUX代表/アロマハンドセラピスト/アロマテラピーアドバイザー
2009年~ マヤの聖地を巡るワールドツアーに参加。パレンケや先住民が住むラカンドン村等、数々のマヤの聖地を訪れる。
また、国内外のマヤの儀式において、火と香りで場と人を浄化する「ファイヤーウーマン」を務める。
2011年~ マヤの伝統的な教えを伝えるワークショップを開催。
マヤカレンダーからインスピレーションを得たオリジナルアロマミストシリーズ「ITSUKI」を制作。

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