エッセイ

五感で感じるエッセイ『イン・ラケ'ッチ!』

『島のレシピ』/波照間島滞在記(2)

島で迎えた最初の朝。テレビニュースの画面には、見た事のない天気図が映っていた。海に島が点在する、八重山諸島の天気図だ。画面の下の方に、台風のマークがある。進路を低気圧に阻まれ、昨日から全く動く気配をみせない。
この日から、私たちを含めた宿泊客5名による合宿生活が始まった。

民宿のオーナーの指導のもと、夕食は全員で作る。調理実習みたいに、それぞれ、切ったり混ぜたりの役割を与えられ、みんな楽しそうだ。
「サラダに使う材料採りに行くよ」
オーナーが、勝手口を開けて外に出た。私は後に続いた。そこには腰の高さくらいの青々とした草が生えていて、風に揺れていた。
「下に行くほど固くなるから、先の方から二番目の葉を摘んで」
そう言うと、オーナーは、その青々とした草(長命草という)をプチプチとちぎり始めた。
…え?これ?!…ただの雑草にしか見えない。

ここでは、食材のほとんどがタダだった。野菜は庭や畑から採って来る。魚は海で釣って来る。
まさに、自給自足。
都会の暮らしは、たくさんの人の“手”によって成り立っている。収穫する“手”、運搬する“手”、販売する“手”、そして、調理する“手”。その労働に対して、私たちはお金を払っている。そんな事に改めて気づく。

その日、私たちは、初めて自分たちで作った島ごはんを食べた。獲れたて鮮魚の刺身、魚介がたっぷり入った磯汁、島豆腐の上に塩漬けの小さな魚を載せた郷土料理・スクガラス豆腐、赤飯に似て、もっちりとした黒米、そして、勝手口の横で摘んできた長命草のサラダ。意外な事に、このサラダが実においしかった。ニンジンやキュウリや玉ねぎと一緒に千切りにして、シークワーサーの絞り汁とごま油で和える。すると、苦味が消え、おいしく食べられた。
どの料理も、素材の一つ一つに力がみなぎっていて、その力が、ダイレクトに私たちの体に沁み込んできた。今、この時の匂いを、味を、感触を、今、この時、目の前にいる人たちと分かち合う。それは、ブログやツイッターでは決して味わうことのない、リアルな感覚だった。
オーナーはとっておきの泡盛を、惜しげもなく振る舞ってくれた。普通の夕食が、あっという間に宴会になった。私たちは、よく食べ、よく飲み、よく笑った。
宴たけなわのその時、私の右肩に、『何か』が落ちて来た。

「ん?」

次の瞬間、『何か』が私の肩を踏み台にして華麗にジャンプ!テーブルの上、皿と皿の隙間に着地した。ヤモリだった。
「きゃああああああああ」 「騒ぐんじゃない」 と、ほろ酔いのオーナーに叱られた。

だって、だって、だってえええええええ。

テーブルの上のヤモリは、短い首を回して、私を見ていた。  
「油断するなよ」と言われているようだった。またしても、幸福感の絶頂で突き飛ばされた。

…神様、スパルタ。

島の夜は、更けていく。

プロフィール

白川ゆり

CASA DE XUX代表/アロマハンドセラピスト/アロマテラピーアドバイザー
2009年~ マヤの聖地を巡るワールドツアーに参加。パレンケや先住民が住むラカンドン村等、数々のマヤの聖地を訪れる。
また、国内外のマヤの儀式において、火と香りで場と人を浄化する「ファイヤーウーマン」を務める。
2011年~ マヤの伝統的な教えを伝えるワークショップを開催。
マヤカレンダーからインスピレーションを得たオリジナルアロマミストシリーズ「ITSUKI」を制作。

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