旅は私の宝箱
温故知新を望むけれど
「スペインに行きたい。」
と夫が言った。去年永年勤続で、休暇とお祝い金が出るので何処に旅しようかと夫婦で相談していた時だった。
「元気になるのよ。スペインに行くと。」
会社のスペイン好きの人のその言葉に感化されたらしい。「団体ツアーは嫌だな。個人旅行にしたい。」夫は海外旅行好きの私の影響で、それ迄何度も旅行をしている。いつもエアー&ホテルを予約して現地を2人で旅する事に慣れているので団体ツアーは面倒らしい。
私もスペインは大好き。早速webで適当な旅行を探し始める。
首都のマドリードや、人気のバルセロナは外そうと2人の意見は合致。沢山人が集まる所は犯罪者も集まる。その2ヶ所を外しても充分旅行は楽しめる。スペインの、他の人気スポットにはアンダルシアがある。トルコ航空でイスタンブール乗り換え、南スペインの大都市マラガ空港行きの飛行機を利用するツアーに申し込んだ。
乗り換え空港の新イスタンブール空港は2018年にオープンした。立ち寄った事の無い新しい空港。事前にインターネットで下調べをして、4時間位の待ち時間が少し楽しみでもあった。
飛行機がイスタンブールに到着してブリッジ(飛行機の機体と空港ターミナルを繋ぐ通路)を抜けてロビーに入る。新設の綺麗な屋内。入って直ぐ左側には観葉植物に仕切られた言わばお休み処のようなスペースがある。そこには黒っぽい合成皮革のマットレスに寝そべっている人々の姿が見える。(わあ~い!)と心は小躍り。足早にそちらに向かう。そして[お休み処]に着くと、肝心のマットレスを探すが全て先客に使用されている。
見回すと、黒人男性が1人で3枚のマットレス確保している。私は、「全部使うの?」と英語で話しかけた。彼は「彼女と待ち合わせていて~―~」英語での返答は、最後は何を言っているのかわからなかったけれど、ご親切にマットレス2枚を私たちに差し出してくれた。
(ラツキー!)
「サンキュー!」
早速マットレスを敷いて座る。
(こんなの欲しかったのよ~!)
夫婦二人で各々マットレスの上で脚を伸ばす。
10時間以上のフライトの疲れもこれで癒える。何せこの後も4時間弱のフライトがあるし、現地に着いたら、バス3本を乗り継いでホテルに向かう。ただリラックス、リラックスとばかりはいかない。私には、空港での待ち時間の過ごし方のルーティンがある。夫婦の1人がここに残りマットレスのキープ、もう1人が空港内の探索をすることとする。
先ずは私から。何せ女は色々用が多いものですから。お先に行かせて頂きます。
歯を磨いたり、洗顔したり。洗顔が終わると免税店に行って、試供品の化粧水をお肌に付ける。それから美容液と乳液と……。図々しいのは承知だけれど多少は気を付けている。
化粧品のワンアイテムを1ブランドで、全ての工程をブランドのはしごで完成させている。
一所で全てを付けると長居することになりますから。
この様に化粧品売り場を廻っていたら迷子になってしまった。私、方向音痴なもので。この空港は迷子になる程広い。そんな広い広い新空港だがあれが無い。旧空港、アタチュルクにあったフードコートが。B級感漂う、さながら屋台が並ぶような雰囲気。独特なあの感じ、名残惜しいなあ~。まるでトルコの下町を思わせるようで、私はトマトシチューを食べた事がある。冷めていたけれど、外国の料理特有のクセも無くお味は良かった。
新空港の建設はトルコ人が企画したのだろうから、フードコートの存続を主張する人が居なかったのかも。あの雰囲気は外国人が強く惹かれるのかな? B級の温存よりも、巨大な新ハブ空港を目指したのかしら。替わりにあるのはお洒落なカフェやコーヒースタンド。この様なお店なら何処にでもある。
ルーティンをこなし、新しい空港の探索をしながら夫の待つお休み処に帰り着いた。夫は入れ替わりで空港の探索に出かける。ここに戻るのに、迷い迷いでとても時間がかかった。かなり歩き回ったけれど時間はまだある。大きめの手荷物を背中の後ろに置いてそれに寄りかかり、ベターっと横になる。のびのびしながら、イスタンブール新空港の評価をする。
このマットレスは最高!
けれどあのフードコートが無くなったのは残念!
でもちょっと待って。ここは私たちにとって、飛行機の乗り換え地点でしかない。ゆっくり休めればそれで良いじゃない。トルコの街中の様子は、実際トルコに行って楽しもう。B級グルメを味わいながら。
コロナが世界中で蔓延する中。終息の兆しはいつ訪れるのか? お休み処のマットレスも、また旅行客にひっぱりだこになるのを待ち望んでいる。
プロフィール
古野直子
横浜生まれ横浜育ち。結婚後10年以上夫の転勤で愛知県豊田市に居住。2011年に横浜に戻る。趣味は旅行。これまでの旅で印象深いのは、岡山の大原美術館、海外ではスペイン、ロシア。