エッセイ

旅は私の宝箱

実家の食卓 福岡県

機体が高度を下げるのを身体で感じる。半円を描くように飛行機が旋回する。窓の外を見下ろすと向うには海が見える。機体が地表に吸い込まれるように着陸しスピードを落としながら停止する。このひととき、胸が高鳴ります。ああ 福岡に着いたと。

「九州はよかとこよ。」「九州はよかとこたい。」                  
私の周りの九州出身の方々は皆こう言います。そのよかとこ九州との縁は結婚によってもたらされました。夫の実家が福岡の太宰府市にあるのです。よく帰省しますので友人に話をします。多くの人々は福岡について誤解しています。暖かい所だと思っているのです。福岡は寒流の日本海に面しているので特段暖かくはありません。暖かくはないけれど、寒流は豊かな恵みをもたらします。そして物価が安い。帰省の折の実家の食卓は豪華です。

いただいたものの中で1番おいしかったのはまぐろのお寿司です。結婚して間もない頃でした。今は亡き義父が、注文したお寿司を箱崎という所までわざわざ車で取りに行ってくれました。私はあんなまぐろの赤身を食べたことが無い!身の締まった凛とした味。人は本当に感動するとありきたりな言葉しか言わないものです。「おいしい~。」私は言いました。夫は「遠慮せずに食べろよ。」と言いすぐに「遠慮してないな。」と言い直しました。

それ以外にもごちそうは並びます。義母の作ったがめ煮。あの松田聖子さんの好物です。福岡風筑前煮です。私は元来根菜類が嫌いなのですが義母のがめ煮は大好きです。そしておおぶりに切られたお刺身。まぐろ、いか、帆立の貝柱、ブリ。その横に義理の妹がお酢を用意するのを私は不思議に思っていました。お刺身にお酢をつけて食べた事がないからです。でもすぐになぞは解けました。帆立を酢じょうゆで頂くのです。ほんのりあまい帆立と酢じょうゆの相性はグッドです。夏のお盆の頃の帰省。これらを冷房の効いた畳の部屋でいただく。冷酒を飲みながら… 。ふつうの特別。そんな妙な言葉がピタリとくる光景です。

冬、お正月にはこれらにあごだし仕立てのお雑煮が加わります。あごとは飛び魚の事です。義母の味つけも絶妙なのでしょうが、とにかくだしが良く効いています。あまりに美味なので福岡を発つ際に購入しようとデパートで立ち寄りました。しかし高くて手が出ませんでした。

食が豊かな福岡は日照時間が長いです。夕暮れ時の太陽はとても大きいです。郊外の田畑はのどかで日々の喧騒を忘れさせてくれます。こんな地に生まれ育ったのならきっと私も言うでしょう。 

九州はよかとこよ 福岡はよかとこたい!

プロフィール

古野直子

横浜生まれ横浜育ち。結婚後10年以上夫の転勤で愛知県豊田市に居住。2011年に横浜に戻る。趣味は旅行。これまでの旅で印象深いのは、岡山の大原美術館、海外ではスペイン、ロシア。

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