エッセイ

旅は私の宝箱

ヨハネスブルグにて-南アフリカ-

数年前に南部アフリカ3か国を周遊した。帰りの乗り換え、ヨハネスブルグの空港で搭乗まで3時間以上の待ち時間を過ごす。

その間元来落ち着きが無いのと2度と来る事が出来ない場所かもしれないという思いからベンチに立ったり座ったり、あちらに行ったりこちらに行ったりして時間をつぶす。そんな私にベンチの横に座っていた、20代と思しき黒人女性が英語で声を掛けてきた。(この後も文章中の会話は英語)

「あなたは自分に合った室温の場所が見つからないようね。」

多分私が暑いか寒いかどちらかで、落ち着いて座っていられないのだと思ったのだろう。続けて「どこから来たの?」と問いかけてくるので「日本よ。あなたはどこに行くの?」と聞いた。

「韓国よ。」との答え。

私はこのやり取り後に思い切って、先程から目に入っていた彼女の風貌について疑問を投げかける事にした。

「あなたのその髪は自分の毛なの?」

少々不躾かと思ったが聞いてしまった。何故ならその女性は黒髪で天然のカールを三つ編みにしたり、カラフルなヘアアクセサリーを幾つもつけたりしてでとてもファツショブルだったからだ。かつらではなく、自分でセットするのならどのくらい時間を要するのだろうと無精な私は疑問を持つ。

するとその女性は友達らしき隣に座っている女性と一緒に爆笑した。そして笑いながら「ええ、自分の髪の毛よ。」と答えた。続けて「南アフリカって良い所ねえ~。」と私がこの旅の感想を漏らすとその女性は「そう?」と横を向いて何故だか少し不機嫌になった。「ボツワナに行った?」と聞いてくるので「行ってない。」と答えた。「ボツワナは良い所よ。動物が一杯いて。今度是非来て。」

私はこの時2つ間違いを犯していた。1つはすぐに気が付いたのだが、会話をしたこの女性を南アフリカ人だとばかり思っていた。

南アフリカのヨハネスブルグの空港で会ったから。けれど彼女はボツワナ人だった。だから私が南アフリカを褒めた時少し不機嫌になったのだ。
あの時の私の言動は、日本人の私に向かって「中国って良い所ね。」と言う様なもの。そんなことを言われたら、私だって「日本には来た?日本は良い所よ。」と言いたくなる。そしてもう1つの間違いは…。それに気付くのは日本に帰国してからになる。 (あっ! 私、今回ボツワナに行ったんだ!)

あの女性の言っていた「動物の一杯いるボツワナ」。それに関してはまたの機会に話を披露したい。

この帰りのヨハネスブルグの空港の会話は私に、往きのこの空港での別の黒人女性のヘアケアを思い出させた。その女性の髪はベリーショート、いわゆる短髪だったのだけれどセットをとても丹念にしていた。場所はトイレ。私は鏡前の洗面台より少し下がって歯を磨いていた。

すると鏡越しに小柄で目のくりっとした可愛い黒人女性の姿が写っていた。歳は20代前半位。小さい天然カールのショートヘアを櫛で梳かしていた。とても念入りに。正直言って”あの髪の短さでそんなに丁寧にしなくても。”と思うほど時間をかけていた。そして髪を梳かし終わると今度はポーチからヘアワックスを取り出し髪になでつける。それから頭の上を手のひらで軽くポン、ポンと押さえて小さいカールの立ち具合の調整をした。

「ARE YOU OK?」(思い通りになった?)

と聞きたくなるほどの丁寧なスタイリング。その間ずうっと様子を凝視していたけれど失礼ながら、スタイリング前と後とではあまり違いがわからなかった。 この2人の黒人女性のヘアスタイルにかける情熱を若かりし頃の私なら少しは理解出来るだろうと思えるようなものをつい最近発見した。

実家の掃除をしていたら押し入れからプリント写真の束が出て来た。一瞬(だれ?)と思うほどの若さ、細さ。多分ハワイのマウイ島の写真だと思うのだけれどビキニ姿でショートカットの私が写っている。それ以外はサンフランシスコや長崎のハウステンボスで写したもの。メイクはバッチリでヘアスタイルはその度に違う。

あの黒人女性達ほど手はかかっていないけれど。端から見れば”何もそこまでしなくても!と思うようなおしゃれにお金や時間をかけて外見磨きをしていた自分を思い出した。黒人女性の髪型に対する情熱が、昔の自分の写真の姿に一部重なった。

次の便への乗り継ぎの待ち時間は、往きは黒人女性のヘアセットのデモンストレーション。帰りは完成されたヘアスタイルのショーのようだった。ベリーショートと派手派手しい髪型の両極端さがより一層、アジア人の私には刺激的だった。

とても治安が悪いと言われている南アフリカのヨハネスブルグ。多分私は今後も、空港に立ち寄る事があっても街中を歩くことはないだろう。無いものねだりのもどかしさ故か、ヨハネスブルグの思い出としてこの空港内の2人の女性の様が印象に残る。そしてヨハネスブルク在住と思われる空港内のバーの店員はユニークだった。

バーは2階にあるのだが、店内手前がドリンクをオーダーしてスツールに座って飲む所。奥はソファーがあり喫煙出来る。愛煙家の私は、待ち時間中何度かこの喫煙所に立ち寄った。何も飲まずに。3度目にこのバーに行った時、店頭に立っていたその店員は(またアンタか。)という顔をする。私もバツが悪いので猛ダッシュで店に入る。すると店員が近寄って来て、「コーヒー? コーラ?」とからかいにくる。海外ではこんなコミュニケーションも楽しいもの。

(あの人も仕事が終われば空港外の自宅に帰ってくのよね。)

きっと彼は、私が恐がっているヨハネスブルグで青春時代を謳歌しているのだろう。「住めば都」と言うけれど、その都に関心はあっても足を踏み入ることが出来ない。 ボツワナ人ともう1人の国籍不明だがあの黒人女性達は、僅かな私のヨハネスブルクの滞在時間に良い意味のショックと鮮やかさを添えてくれた。
加えてヨハネスブルグ在住と思しき青年とのコミュニケーションも良い思い出となった。

「遊びに行っても都」

そんな街になってくれる事を願うばかり。

プロフィール

古野直子

横浜生まれ横浜育ち。結婚後10年以上夫の転勤で愛知県豊田市に居住。2011年に横浜に戻る。趣味は旅行。これまでの旅で印象深いのは、岡山の大原美術館、海外ではスペイン、ロシア。

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