エッセイ

旅は私の宝箱

高知の想い出

高知県は私の父のふる里です。幼い頃家族でよく帰省しました。長岡郡本山町という所で高知県の北部に位置します。帰省はいつも夏でした。記憶は10秒位の動画で心に刻まれています。

寝台車に揺られ、岡山か広島に真夜中に降り立った事。四国に入ってからも汽車に乗り、車窓にはうっそうとした森がひろがっていた事。そして長い長い旅の終わりにやっとバスで辿り着きました。実家は父の兄夫婦が住んでいて、バス通りに面しています。バス停では、叔父が満面の笑みで私達を出迎えてくれました。

その家の前の道路が幼い時には大変広く感じました。渡るとお菓子屋さんがあり、その先には川が流れています。川の橋を渡るとその奥には林が広がっています。ある朝、弟を連れてその林に散歩に出掛けました。多分私は9歳位だったと思います。林の中を歩いていると「東京から来たのか?」と地元の少年に声を掛けられました。「ううん、横浜よ。」と答えると「よこはま?知らんナア。」私は自分の住んでいる街を知らないと言われた事に少なからずショックを受け、「あんたよこはま知らないの?」と聞きました。「おれ、社会あんまり得意じゃないから。」との答え。その後の少年の話は何を言っているのか私にはさっぱり通じません。なまりが強いのです。同じ土地に住む叔父や従兄の言う事は解るのに…。「あんたの言っている事がわからない。」と言うと「おれはおまえの言っていることわかるぞ。」少年は不思議そうに答えました。

こんな映像を想い出すと私の頭の中には井上陽水の夏休みという曲が流れます。甘い想い出。林、素朴な少年、虫捕りあみ…。映画のワンシーンのような時間が流れた夏の日々でした。これが私にとっての高知です。

かたや一般的に高知県と聞いて人々が連想する物は何でしょうか? 坂本龍馬、宮尾登美子の「鬼龍院華子の生涯」、足摺岬、土佐犬…。勇ましいイメージがあります。私に言わせるとこれらは まさに土佐。加えて土佐を彩るのは土佐鶴、司牡丹といった銘酒。にんにくのスライスと一緒にポン酢でいただくかつおのたたき。柑橘類も美味で、文旦は高知からよく横浜の家に送られてきました。空港で飲んだレモネードのおいしさは今でも忘れる事が出来ません。

まだまだ書き尽くす事が出来ない高知県。今度訪れる時は少しゆっくり滞在したいです。
高知と土佐の2つの魅力を満喫するために。

プロフィール

古野直子

横浜生まれ横浜育ち。結婚後10年以上夫の転勤で愛知県豊田市に居住。2011年に横浜に戻る。趣味は旅行。これまでの旅で印象深いのは、岡山の大原美術館、海外ではスペイン、ロシア。

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