エッセイ

旅は私の宝箱

春の夜の夢

ドイツのとある町。時間は夜の7時頃。店の前には体格の良いガードマンが立っている。

「ヘイ!レディース トライ、トラーイ!」

と英語で呼び掛ける。この場面で、あなたならどうする?

友人に聞くと「入らない。」と首を振る。私たちは入店しましたよ。モチロン。

これは私がまだ学生の頃。学校の任意の語学研修で、1ヶ月程イギリスにホームステイした。その帰りにドイツやフランスを廻ってから日本に帰国する。その途中のドイツでの出来事。ここはミュンヘンだったかな?宿泊したホテルはとても立派だった。学生の団体の宿泊だから当然夜間の外出は禁止。けれど禁止されても行かなくちゃあ。若い血は躍動していた。

(同級生と3人でホテルの明るいエントランスを小走で出て行った)

そんな情景を思い起こす。ホテルは住宅街にあった。暗い中、数分歩いて友人が事前にチェックしていたディスコに着いた。その店はさほど大きくなく、派手な飾りの外観でもなかった。この前にガ-ドマンが立っていて

「ヘイ!レディース...」

と声を掛けられたわけ。でもさすがに入るのは躊躇する。友人がガ-ドマンに「ハウマッチ?」と聞く。

「フリー」(ただ)との答え。

(入ろう。)3人で顔を見合わせ意見が一致した。

中に入ると正面にはシルバーの壁があった。左の方に通路があり数歩歩くとバ-カウンターがある。確かに入店料は取られなかった。歩いて奥に入ると10人位の客がいた。入って、直ぐにあった壁の向こうはダンスホールになっていた。ボリュームの大きな曲が流れている。この時流行っていたア-チストは、マドンナやa-ha、ティア-ズ・フォー・フィアーズ。それから私の青春の代表曲、『イージ-・ラバー』のフィル・コリンズとフィリップ・ベイリーのユニット。この頃の曲はどれも名曲でノリが良かった!早速3人で踊り出した。この時、ホールで2人位が踊っていた。友人はその1人のドイツ人男性から「僕、君のダンスが好きだ。」と英語で言われていったっけ。「サンキュー!」と笑顔で答える友人。

少し踊ってカウンターに行く。甘いジュ-スのようなカクテルを飲む。歳がバレるからあまり言いたくないのだけれど、この時の支払いの通貨はマルクだった。今はユ-ロだけれど…。その後も少し踊ってカクテルを飲んで。10時にはホテルに戻った。

【禁じられた遊び】

は条件が揃い過ぎていた。

光り輝く瀟洒なホテルを抜け出し夜道を小走りした乙女たち。着いた先には屈強な門番が立っていて、怪しげな誘いを仕掛けてくる。勇気を出して中に入ると、そこには流行りの曲が流れる。踊ってお酒を飲んでの数時間。

あの時季節は4月だった。今はあれから何十回目かの春。思い出はいつまでたってもあせないが、私自身は大分あせてしまった。

あの日あの頃に戻りたいとは思わない。けれど80年代の海外ポップスを聴くとあの時代が甦る。

禁じられる程進みたくなった、危うく若かった夢のような青春。

プロフィール

古野直子

横浜生まれ横浜育ち。結婚後10年以上夫の転勤で愛知県豊田市に居住。2011年に横浜に戻る。趣味は旅行。これまでの旅で印象深いのは、岡山の大原美術館、海外ではスペイン、ロシア。

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