エッセイ

旅は私の宝箱

オーロラを探しに

何年か前の11月、フィンランドに旅行した。オーロラを観ることが目的だったのだけれど残念な結果となった。夜空の向こうにチラッと緑色を確認したのと、白いトイレットペーパーのようなものが空に掛かったような光景を見た。

夜、部屋に居ると何やら外が騒がしい。窓から外をみると他のツアーの日本人達が空を見ている。

「オーロラが出ていますか?」と声を掛けると

「出てるわよ。早くいらっしゃい!」

隣室の同じツアーの女性とパジャマの上にオーバーを羽織って出て行った。前を少し開けて彼女に中を見せて「パジャマ姿でお恥ずかしい。」と言うと「それパジャマですか?」と返された。

そのパジャマは何年か前に友人からお誕生日プレゼントとして頂いたもの。紫を基調に明るい色の花柄が描かれている。こんなお洒落なプレゼントは大変有難い。友人は旅行好きな私に、本人の手が回らない旅の寝具をプレゼントしてくれた。このようなシチュエーションで改めて友人の心遣いに感謝する。

何とか人前に出る事が出来る格好で出て行くと、トイレットペーパーの紙が広げられているような夜空が頭上に見えた。

「これがオーロラですか?」と先程、早くいらっしゃいと言ってくれた人に尋ねると

「そうよ。」

そう言われてもねえ~。何のためにわざわざ寒い時期にフィンランドを訪れたのかしら?確かにオーロラは自然現象だから観る事が出来るか否かは自然次第。けれどテレビや雑誌で見る漆黒の空に広がるエメラルドグリーンのオーロラが、あれでは無念過ぎた。この旅1番の見所は残念だったけれど、この後私は有名人に会った。

旅程は先ずサーリセルカという町に2日居て、ここでオーロラ鑑賞。そこからロヴァニエミという場所に移動した。ここには有名なサンタクロース村があって、ここに公認サンタクロースがいる。サンタクロースに会える時間は決まっていたと思うが、到着後タイミングよく会う事が出来た。

受付にフィンランド人の若い青年が居て

「卒業旅行ですか? 可愛い~!」

と日本語で声を掛けられた。日本人女性にはこう言えば良いとでも思っているのかしら? もう少しバージョンを増やさないと。

(キミィ~! 失礼だよ。私のような熟女に対して。)

気を取り直して中に入っていくと、あの赤と白のコスチュームに身に包んだサンタクロースが座っていた。
お腹が出ていて白い髭をたくわえている。「ハアイ~!」と英語での会話が始まる。

「どこから来たの?」「日本よ。」「サーリセルカ、ロヴァニエミ、ヘルシンキと廻るんだろ?」「そうよ。」

甘えたくなる優しそうな風貌の、サンタクロースの付け髭を触りながら会話をしていた。すると彼が

「僕、日本に行くよ。」

この時はクリスマスに世界を廻るので日本にも行くという、言わば営業トークのような言葉だと思っていた。そう受付の男性が私に投げかけた言葉のように。だってここはサンタクロース村、メルヘンの世界だもの。

ところがこの言葉、後に事実であった事がわかる。日本に帰国して少し時間が経ってから…。

フィンランドを旅したのは11月初旬だった。帰国して12月の始め頃、夕方テレビをつけていた。するとニュースから流れてきたのは

『サンタクロースが日本に来た。』というものだった。びっくりして画面に釘付けになった。

『えぇ~!』

なんとそこには、フィンランド航空のタラップを降りてくる私服のサンタクロースの姿が…。東京、大阪、名古屋を廻るらしい。

公認サンタクロースはサンタクロース村のシンボル。普段、フィンランドのサンタクロース村に居て来客達を迎え入れる。そして会話を交わしている間にビデオ撮影がされていて、帰りにそのビデオテープをプレゼントいや販売している。多分日本国内でも写真の撮影会やら通訳を交えて人々からの質問を受けたり大忙しだろう。それ程の世界的な有名人なのは言うまでもないけれど、こうやってテレビでその姿を目の当りにすると、

[有名人と会って多少なりとも会話を交わした]

という事実を強く認識した。正直会った時のサンタクロースの顔をはっきり覚えていたわけでは無いけれど、あの時サンタクロースは日本への訪問を私に伝えた。

【あの時のサンタクロースだ!】

テレビを見ながら私は確信した。

でもねえ~、
サンタクロースというよりテレビ局か空港はもう少し粋な計らいが出来ないのかしら?飛行機のタラップを私服で降りてくるサンタクロースは見たくない。トナカイを用意しろとは言わないけれど、せめてあの赤と白の衣装をまとわせて空港ロビーで撮影する位の配慮が欲しかった。

そんな事を考えながら旅の余韻に浸っていると、様々な想いが心をよぎる。

エメラルドグリーンのオーロラが白いトイレットペーパーでがっかり。

サンタクロースの言った「日本に行く。」という言葉は事実だったと気付いてびっくり。

そして熟女の私が、若い白人男性にとって可愛いという事実を知ってにっこり。

いつまでも夢見がちな熟女は人生のオーロラを追いかける。それは人との出逢いかビッグチャンスの到来か?

その漠然とした本人にも分からない何物かは、私の中で幻想的に光り輝く。

プロフィール

古野直子

横浜生まれ横浜育ち。結婚後10年以上夫の転勤で愛知県豊田市に居住。2011年に横浜に戻る。趣味は旅行。これまでの旅で印象深いのは、岡山の大原美術館、海外ではスペイン、ロシア。

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