エッセイ

旅は私の宝箱

自然は意外

憧れだった遠い国、アフリカ。距離感もさることながら旅費も高い。南アフリカ、ボツワナ、ジンバブエ。この3か国を7日間で観光出来る比較的お値打ちなツアーを見つけ参加した。

最初に訪れた南アフリカのケープタウンは、ウォーターフロントのショッピングセンターがあって街中も綺麗な都会だった。洗練された街から次の訪問地、ボツワナのホテルに到着すると趣が一転した。部屋に入って荷物を整理していると電話が鳴った。添乗員さんからの連絡だったのだけれど、

[バブーンという猿が窓を開けっ放しにしていると入ってきてしまう。〕

という注意だった。部屋をひっかき回されてはたまらない。開けていた窓を直ぐに閉めた。自然の中で動物に触れることに憧れて今回のツアーに申し込んだのだけれど、少し気持ちを引き締めた。自然や動物は私が思うほど穏やかではないらしい。あくまでも人間が動物の楽園にお邪魔しているという事を忘れてはイケナイ。

ホテルで野生動物の生態や、人間が自由にするばかりは許されないという事を少し学習して次の朝バスでチョベ国立公園に向かう。行く道中から窓の外に野生の子象の群れが木の下に見える。私はバスから手を振った。すると1頭の子象が鼻を高く振り上げた。

「わぁ~!振り返してくれたー‼」と喜んでいると、

「あれは振り返しているわけではありませんよ。木の実を取っているんです。」と添乗員。

(いいじゃないの、振り返したという事で…。ここはパラダイス。大人も大興奮の自然公園のような所なのだから。)

国立公園は人間が手を加えないように管理されていて、それ以外の場所は動物が人間と共存している。人の食べ残しがエサになる事もあるだろうし、象の排泄物がドカッとその辺に存在している。あのフンは、普段それに見慣れない観光客にとってはとても刺激的。

ボツワナ人にとっては当たり前のことでもいわゆる経済大国から来た人間にとっては、この村の中の景色さえとても興奮する。国立公園に向かう途中での自然の観察も興味深かった。

そんな道すがらを経てバスはゲートをくぐる。

中に入るとツアー一行はバスを降り6人ずつジープに乗り換える。天井には布製の屋根があった。一応日差しや多少の雨は防げる。あとはドライバーの前にフロントガラスがあるけれど、車の左右は開いている。この時私は気付くべきだった。(ライオンにはお目にかかれない。)という事を。車の仕様から言って、どう猛な動物に出くわしたら私達は襲われてしまう。そんなことにも気付かぬまま(ライオンはどこお~?)と終始脳天気な私だった。

公園内は、車が走る通路はあるけれど舗装されているわけではない。ガタン、ゴトンと揺られて車は走る。まず私が驚いたのは左の方に見えた木、倒れている木だった。『木は真直ぐ生えているもの。』と思っていたから。と言うよりも、それは当たり前の事過ぎて考えた事もなかった。何本も倒れている木を見ると、(象が突進して倒したのかしら?)と疑問がわく。

そして右側には川がある。川沿いを車は暫く走る。すると水面に、黒く丸いものが5つ位浮かんでいる。何かと考え思い当たった。それは水に潜ったカバの背中だった。ボコッボコッとした黒い背中の一部分は、見た目にグロテスクだった。「ちょっと不気味。」と言うと、私の後ろに座っているツアー客の男の人が顔をしかめて頷く。その後もキリンの群れが向うの方に見えて、所々車は止まり写真の撮影タイムとなる。それも感動的ではあったけれど、陸地のクルーズで私が印象的だったのは倒木と川の水面からのぞくカバの黒い背中だった。

テレビでサファリパークやアフリカの草原の光景を見ても倒木や、川に浮かぶカバの背中は映さない。だからとても気になった。平和そうなキリンの群れや象よりも、朽ちた老木や川面に浮かぶ得体の知れない黒い背中の方がより人の心を掴むのかもしれない。いや、それは私だけかな?

この後、陸のクルーズの途中で休憩をした。車を一所に止めクルーズ客達は一度降りて用意されているジュースや水を飲む。この時私は黒人スタッフに英語で聞いた。

「あの壊れた木は何?」スタッフは言われている事が解らない顔をして、「倒れた木?」と問い返してきた。「あ、そうそう。倒れた木。」と返すと「寿命だよ。」という答え。「死んでいるの?」と更に問うと「そうだよ。」と言う。現地の人には何故そんなことを聞くのかと不思議だろうけれど、私にとっては[木にも寿命がある。]という事はとても新鮮な驚きだった。

考えてみればそれは当然のことなのだけれど、寿命を全うして伏している木を見た事などないのだから私が驚くのも当然。

それから車は陸のクルーズを終えランチを頂く。

ランチはビュッフェ形式で、グリルされたチキンやサラダ等が供される。デザートも用意されていて、ケーキが何種類かあった。ここでまた

『ひょえ~‼』

ケーキに虫が集まっている。最初ハエかと思ったのだけれど、ツアーの他の人いわくあれはハチらしい。私は果敢に、ハチの1番人気のケーキを取った。私から見てもそれが1番美味しそう。サービスしてくれる黒人女性がハエだろうがハチだろうが気にする様子もなく「アイスクリームを添える?」と英語で聞いてくる。

「うぅーん。」小さく頷く。

それでもケーキは美味しく全部平らげましたけどね。

【郷に入っては郷に従え】【マズイものは虫も食わない】

というよりは、私がガサツなただの食いしん坊なだけかも知れないけれど。

自然のままの国立公園。そのままのボツワナの村の中。共に観光客の私には未知の世界だった。

私の国立公園のイメージはテレビに映し出される光景だった。平和そうなキリンや象の群れ。反して弱肉強食の、チーターが小鹿を追いかけ捕獲され食い殺されるシーン。その様なものよりも、もっともっと地味な営み。寿命を全うした樹木の姿、村中に置き去られた象の巨大なフン。これらこそまさに未知。

そしてこれらこそ自然の原型。

プロフィール

古野直子

横浜生まれ横浜育ち。結婚後10年以上夫の転勤で愛知県豊田市に居住。2011年に横浜に戻る。趣味は旅行。これまでの旅で印象深いのは、岡山の大原美術館、海外ではスペイン、ロシア。

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