エッセイ

旅は私の宝箱

伊勢うどんもお忘れなく!―三重県―

伊勢志摩に行ってみたかった。その思いを叶えるべく、その時の居住地の愛知県から車で伊勢志摩へ向かいました。時季はゴールデンウイークだったと思います。事前にガイドブックで下調べをして、往きに手前の三重県の河崎に立ち寄りました。江戸時代に物資の運搬に使われた静かな河の流れる町です。当時は倉庫として使われた蔵が今も残り、今で言うなら海運、倉庫街と言ったところでしょうか?私は近隣のおかげ横丁よりも、やや地味な河崎に惹かれたのです。ただこの時は、これ程想いでに残るスポットになるとは想像していませんでした。あんなに行きたかった伊勢志摩より印象深いとは…。

河をボーッと眺めているとその当時の光景が目に浮かびます。舟に大きな木箱が幾つも積まれ船頭はやや年配の人。首には手拭いをかけています。河の先を目指して舟をこいだ。行き着いた町はあまり広くなく、待ち受けていた人と蔵に荷物を運び入れる。その蔵は今は喫茶店などの店舗になっていました。静かで穏やかな時間の経過を感じさせてくれる場所でした。

朝9時頃家を出て、河崎に着いたのは正午頃でした。小さな町をブラブラ散策した後、さてお昼ご飯は何を食べようか?と夫婦で相談していました。そしてふと何気に右方に目をやると、次から次へとこの界隈の住人らしき人々があるお店に入っていくのです。興味をそそられ私達もそのお店に近づいていきました。店名は覚えていないのですがそこはうどん屋さんでした。どこにでもあるようなやや古めの店構え。三重と言えば伊勢うどんです。今日のランチはこのお店で頂く事に決定!

店内に入ると、中は8畳ほどの広さ。確か奥にはたたみの座敷もありました。店の中も外観同様飾り気がありません。お客さんは私達以外はみな地元の人達です。手前のテーブル席に座りメニューを見て、アルバイトとおぼしき青年に伊勢うどんを2つ注文しました。

程無くしてうどんが運ばれてきたのですがどんぶりの外側にネギかがピタッとくっついていました。これもご愛嬌。どんぶりにはたまり醤油ベースのおつゆが4分目位入っていて、うどんをこのおつゆにからませながら頂くのです。濃厚では無い、かと言ってあっさりもしていない加減のおつゆでした。人生で初めての味はほんのりとした甘さです。この伊勢うどんは私に新たなるうどんの食べ方を教えてくれました。

新しい洒落た店内ではこれは食べたく無かった。他の観光客と並んで食べたく無かった。今思い返すとそういった様々な偶然もこのうどんランチを演出しています。知らない土地でふと立ち寄ったお店で夫と2人うどんを食す。食べ終わってお店を出る時には、あの甘いつゆのようなふんわり感が私の心を包み込んでいました。

今住んでいる横浜の自宅の近所に去年、讃岐うどんのチェーン店がオープンしました。休日のお昼時にはお店の前にはお客さんが並ぶ程の人気です。それを見るといつも私は思うのです。

讃岐うどんも良い。こちらはこちらでまた別の機会にお伝えしたい。ただ今は…伊勢うどんもお忘れなく!と言いたいのです。

プロフィール

古野直子

横浜生まれ横浜育ち。結婚後10年以上夫の転勤で愛知県豊田市に居住。2011年に横浜に戻る。趣味は旅行。これまでの旅で印象深いのは、岡山の大原美術館、海外ではスペイン、ロシア。

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