エッセイ

世界の地元メシ

夜のサラダ

16歳のころの、アメリカ滞在時のごはんのお話、第3話です。当時、世界では「ミセスフィールズのクッキー」たるものが大流行りしていたときで、私がお世話になった家の名前がフィールズさんだったので、ご近所の人が面白がって、何かというとミセスフィールズのクッキーを持って遊びにきていた。

さて、そのミセスフィールズであるママは、名前がエリザベス、元女優の美人さんです。おおらかで開けっぴろげで、いかにもアメリカ人の陽気なお母さんという感じで、一緒にいて心地の良い人だった。

ベスマム(ママ・エリザベス)には得意料理というものがなく、焼くだけ・ちぎるだけ専門のクッキングしかしないと豪語していた。実際、彼女の料理は、何らかの肉と野菜をグリルで焼いたものに、マカロニを茹でたものにチーズを和えたものを沿えるってのが繰り返されていたな。

味付けは、当時はハリウッドスターのポール・ニューマンのソースが大流行りだったので、数種類のソースをグリル料理につけて食べていたよ。ご近所中がポール・ニューマン使ってたし、何なら買い過ぎたソースをご近所で物々交換していたので、ところ変わるとママのあり方も変わるってことですな。

クッキングで私がびっくりしたのが、彼らはサラダを夜に食べないってことだった。晩御飯を作るのをたまに手伝っていたんだけど、私がサラダを作るって言ったら「夜にサラダを食べるの?」ってママに本気でビックリされた。

ミスターフィールズ・パパも「ええ? 日本では夜にサラダが出るのかい?」って目を丸くして聞いてくるので、相当びっくりなことらしい。ねえねえ、サラダって朝に食べるものなんだって。理由は「冷えるから」。

確かに、テーブルの夜のラインナップを見ると火を通したものばかりだ。この時に気が付いたけど、日本食って生の食べ物が多いよね、豆腐・刺身・漬物とか、常食してるものって生のものだから、生野菜食べることに何の抵抗もなかったけど、彼らからしたら、火の通ってないものを食べてるって感覚なのかもしれない。

野菜を少し歯ごたえを残そうと半生にグリルするのでも「もっと火を通さないとダメよ」と言われて、この延長線上に、グタグタに茹でたほうれん草や、豆が一粒も残っていないさやえんどうなどがあるのだなー、と深く理解をした。

でも、そのあとのデザートは、丼一杯のバニラアイスに冷凍ラズベリーをドバドバ乗せたものを食べてるので、この人たちにとっての「冷える」って、いったい何なのだろうかと思ったよ。

ベスマムは、その後20年位してから手紙を出したら、電話がかかってきた。「久しぶりね、手紙が今届いたのよ!うれしくなって電話しちゃったの。私、今さっき、煙草の吸い過ぎで肺がんで入院していた病院から、退院したばかりなの。全快祝いに、あなたと一緒に一服するわ」と言って、息を深く吸い込む音と、吐きだす音が聞こえた。

あれからスゴイ年月が流れたけど、ミセスフィールズのクッキーは、まだ生き残ってるね。あのクッキー見ると、ママのことを思い出すよ。

プロフィール

ほしのしょうこ

25年ほど雑誌・WEBマガジンなどで記事を書き散らしているフリーライター。 副業でWEBデザイナー崩れもしている。趣味は散歩と仕事。重度の放浪癖があり世界を鞄一つで浪漫飛行していた。現在は頑張って日本に定住中。

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