エッセイ

世界の地元メシ

ドイツでごぼう

こんな地味な画像ですみません。ゴボウの話です。

さて、私にはメアリーという名の先輩がいて、放浪中に、その人を訪ねてドイツに行ったことがある。

その先輩は、私が新社会人になったときに私の指導員としてついてくれた、いわゆる社会人シスターみたいな存在。

8つ年上の、私がその後の人生で「旅人という生き方」を選択するときのモデルになった人で、文字通りのガチリスペクトしたパイセンです。

当時メアリーは、私の教育担当が終わったら社員から契約社員にしてもらい、半年ごとに海外を旅して戻ってくるという個人契約を会社と交渉していた。マジかよ?と思うなかれ。

私がいた会社は、外資2社で合資した奇妙な会社で(今は誰もが知ってる会社になっている)、とにかく役員から上司まで、全員が本当に変わった人ばかりだった。

なので、仕事後のスクール通い・Wワーク・在職中の海外留学は当たり前で、気になる職場があれば会社が交渉をして会社間の留学というか研修にいかせてもらえるという、本当に突飛な発想をする会社だった。

バブル後期ですでにインターネットメールが完備されていて、世界のどこでも自由に社内の人間とやり取りできたのも大きかったと思うが、メアリーのような交渉をする社員は、決して少なくなかった。

メアリーは契約に成功して、私が勤めてから半年後には世界を旅する旅人に転職。そのメアリーに会いに、私も旅人になって10数年後に会いに行ったのだ。連絡がついたその時、私はアメリカ中だったので、何かお土産要りますか?と聞いたら「日本人マーケットがあったらゴボウ買ってきて!」と言われました。

で、結局、生ゴボウはなかったので、乾燥きんぴらのモトみたいなのを大量に持ってドイツへIN。久しぶりに会うパイセンは、5人の子持ちになっていた。

ゴボウはなんでほしかったのかというと、当時のヨーロッパにはゴボウが存在しておらず、猛烈にきんぴらごぼうが食べたかったのだそう。メアリーがゴボウ欲しさに調べた結果、なんと、世界でゴボウ食べているのは日本人だけなんだそうです。

だから、海外でもゴボウを栽培している国はなく、その結果、日本から出たらほぼ永遠に手に入らない食材なのだそうだ。5人も子供がいるとおいそれとは母国にも行けないし、親が来てくれても、生野菜だから海外持ち出しできないのだそう。

と、まあ、ゴボウ1つでメアリーが大騒ぎをしていたのは、当時のメアリーの情報によれば、ヨーロッパには日本のゴボウが育つための菌がないらしいということで、自分で種を買って育てても全部枯れちゃうって言っていました。(さすが、パイセン、自力で試していた)。

似たような食材で、ギリシャに西洋黒ゴボウというものがあるんだけど、メアリー曰く「味も香りもないゴボウに無理やりきんぴらの味をつけた」という味がするのだそうです。丹精こめて種から育ててそれでは、お気の毒だ………。

私が遊びに行ったときは、ちょうどキッチンのリフォームをしていて、小柄なメアリーの身長に合わせた高さに水回りを調節したりするのを手伝いながら、5人の子どもたちとアップルパイを一緒に作ったりして楽しかったなあ。ちなみに、メアリーのご主人も職業が旅人で、旅人同士が旅先で出会って結婚したのでした。

旅人の子供は旅人になるわけでもないらしく、彼らは全員、地元で堅い仕事について、すっかりドイツ人のオジサンとオバサンになっております。私はここ20年ほど、旅人を封印していたけど、メアリーパイセンの話を書いたら、ムズムズと放浪癖が復活してきたので、そのうちまた、フラフラと地球を歩き回ろうかなと思い始めております。

ちなみに、その西洋ゴボウは「サルシフィ」という名前で検索すれば出てくるし買えるので、どのくらい美味しくないのかを試したら、本当にパイセンの言った通りのものだったよ。

プロフィール

ほしのしょうこ

25年ほど雑誌・WEBマガジンなどで記事を書き散らしているフリーライター。 副業でWEBデザイナー崩れもしている。趣味は散歩と仕事。重度の放浪癖があり世界を鞄一つで浪漫飛行していた。現在は頑張って日本に定住中。

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