エッセイ

恋しいアジア!お腹もまんぷく美味しい食紀行

シンガポールのレトロ喫茶を体験!現地の「コピ&カヤトースト」

日本では数年前からレトロブームが起こっていて、ナポリタンや固めのプリンなど、昔ながらの喫茶店定番の食べ物がSNSを中心に登場。お店もレトロかわいい雰囲気で、ゆったりとした時間が流れる空間となっています。

そんなレトロな喫茶店と同じような光景が東南アジアにもあるのです。私もおやつの時間や休憩、朝食にと、よく利用しています。何より雰囲気がたまらないのです。

今回は、そんな「レトロ喫茶」をシンガポールからリポートします。

1974年創業「協勝隆」

訪れたのは、シンガポールの中心地からすぐ。鉄道MRTのラベンダー駅から徒歩3分ほどの公団住宅の一角です。

団地の敷地内に施設があり、1階には雑貨店や飲食店が軒を連ねるシンガポールの典型的団地のスタイル。シンガポールは外食文化のため、朝食を店舗で食べたり、持ち帰りをして自宅で食べたりします。なので、朝早くからにぎやかなのです。

そんなのどかな空間を過ぎていくと現れるのが、「協勝隆(ヒープセンリョン)」です。

なんともノスタルジックあふれるお店ではないですか!
1974年創業ということですから、今年で50周年!こちらのお店は、現地でいう「Coffee Shop(コーヒーショップ)」や「Copitiam(コピティアム)」と呼ばれる場所で、コーヒーとトーストが主なメニューです。

飾り気のないシンプルなつくりの店舗には、年季が入ったテーブルや椅子、シンガポールでも見かけなくなった公衆電話、大きな玉のそろばんがあり、日本の昭和を彷彿させるようです。

その雰囲気から初心者には入りにくいようにも感じますが、観光客用でしょうか、真新しいメニュー表があったりして、注文の列に並んでしまえば大丈夫。家族で訪れる人、仕事に行く前にテイクアウトする人、観光客もいて、この日は注文するまでに10分くらい並びました。

イギリス式の朝食から派生したカヤトーストセット

この店の特徴は、炭火を使ってコーヒーを入れたり、食パンを焼いたりすることです。これは昔ながらの調理法を今も変えずにいて、パンは時々焦げたりすることもありますが、それもご愛嬌ですね。

キッチンにはコーヒーをいれる。食パンを焼く。食パンを蒸す(中華まんのように食パンを蒸すのです)。コンパクトな空間で最大限のメニュー量をこなしていきます。作業を見ながら待つのも楽しい時間です。

さぁ、注文したものが届きました!

こちらがカヤトーストセットです。
「カヤトースト」とは、ココナッツミルクを卵と砂糖で炊いたジャム(カヤジャム)を塗ったトーストのことで、ジャムとトーストの間にスライスしたバターの塊を挟みます。これに、甘い練乳入りのコーヒー(マレー語:コピ)とボイルした温泉卵が定番のセットです。

カヤトーストは、カヤジャムの甘さにバターのしょっぱさが相まって病みつきになりますよ。さらに、醤油と胡椒を少し加えて、崩した温泉卵をトーストにディップして食べるというのが、カヤトーストの食べ方です。

実は、このスタイルはイギリス式の朝食がルーツとなっています。というのも、1900年代シンガポールはイギリスの植民地時代がありました。トーストにゆで卵のイギリスの朝食スタイルが、同じころ中国・海南島から移民した中国人によって現地の朝食スタイルになり、生育したココナッツから作るジャムを挟んで食べるようになったのです。

温泉卵は日本人にもなじみがありますが、トーストにディップして食べるとは、おもしろい食べ方ですよね。

日本人はミルクも砂糖もいれないブラックコーヒーで飲む人が多くいると思います。しかし、南国シンガポールでは、暑さに体が負けないよう甘いコーヒーが定番です。

元々コーヒーにはロブスタ種の苦みの強いコーヒー豆を使用していて、その苦みを緩和させるようにバターや砂糖でローストして焙煎している場合があります。なので、コーヒー自体にも甘い練乳を入れるのが定番スタイルなのですが、こちらの店の名物がバター入りコーヒーである「コピ・グーユー」です。

正直、バターを入れて極端に味が変わるわけではありませんが、何となく飲みやすく落ち着く味ではありますね。この昔ながらのコピは、今では提供する店が少なくなっているので、それを目指してこの店を訪れる人が多いのです。

観光となると、ついつい映えるカフェに行きがちになりますが、昔ながらのレトロな雰囲気を体験するのもよいかもしれませんね。

シンガポールにはたくさんのレトロ喫茶があるので、ぜひノスタルジックな雰囲気を体験してみてくださいね。

プロフィール

伊能すみ子

アジアンフードディレクター/1級フードアナリストアジア料理を得意とし、旅をしながら食の楽しさを探究。メディアを中心にアジア食品の提案、店舗リサーチ、食文化コラム執筆など幅広く活動。また、ごはん比較探求ユニット「アジアごはんズ」では、シンガポール担当として、東南アジア4カ国の食べ比べイベントを不定期で開催している。

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