エッセイ

旅は私の宝箱

愛しのあの人

いやねエ~、来る前から分かっていたのだけれど…。やはりそうか、もう旅っ鼻から。始まりから 『まさにスペイン』を見せつけますか!期待を裏切らないとはこの事。
私が大好きなスペイン旅行が始まった。

数年前の7月、夫とスペイン南部を旅した。飛行機とホテルの手配と、途中4、5時間のショートツアーが付いているほぼ個人旅行に近いものだった。トルコ航空でマラガという都市に着いた。マラガは南スペイン最大の都市。ここからは、アンダルシア地方に点在する観光都市にアクセスしやすい。今回はかのアルハンブラ宮殿を訪れるべく、グラダナに向かう。

イスラム最後の王朝、「ナスル王朝」の首都グラダナ。そこに建つ世界遺産、アルハンブラ宮殿は宗教戦争最後の砦だった。キリスト教との闘いに敗れ、追われに追われて背水の陣と言ったところ。けれどねえ~、17世紀から20世紀の事だとは言え町全体やらイスラム建築やらにはそのような危機感はまるで感じられない。堂々としていて、それでいて繊細で明るい。だから建築物や彫刻、芸術に無頓着な私でも心を奪われる。スペイン南部という立地から、アラブやアフリカ大陸やヨーロッパと様々な人種の智や血の成せる技と思える。ただそれは良い効果ばかりを生み出すのではない。けれど悪しき方も、この国の魅力の1つではあるのだけれど。

さて旅のスタート、マラガの空港からグラダナのホテルに行く迄はバス3本を乗り継ぐ。地方空港なので左程大きくはなく、すぐにバスチケット売り場は見付かった。けれどグラダナ駅までのチケット売り場は閉まっていた。仕方がないので、そこから少し行ったバスターミナルに向かった。バスの出発時間まではまだ1時間以上あったのだけれどバス停には10人以上の旅行客がバス待ちをしていた。

「バスチケットを買った?」
私は旅行客達に英語で問い掛けた。数人が首を横に振る。
(そうよね。バス乗車前にチケットを買わなければイケないのだけれど、買えないものね。)
私たち夫婦は安心して皆とバスを待つ。南スペインの強い日差しの中、紫外線を避けながら。しばらく待って、エアコンの効いているであろうバスがやっと来た。ドライバーが降りてきて乗客のカバンをバスの収納スペースに積み出した。

すると乗客の1人とドライバーが何かもめている。スペイン人らしい30歳代と思しき女性がドライバーに何かを訴えている。首を振るドライバー。「ダメだ、ダメだ。」という感じ。そこへ浅黒い中東系の、やはり30歳代と思われる男性も会話に加わる。相変わらず、「ダメだ、ダメだ。」という風のドライバー。

イヤな予感。

どうやら、チケットを購入していない人はバスに乗せないという事らしい。
(あのだから、チケットブースが閉まっているので買えないんですよ‼)私の心の叫びは、当然あの男女2人は訴えているはず。(運賃は現金で受け取ってよオ~!)とも。

出発まではまだ時間があった。私たち夫婦と中東系30歳代青年3人は、英語で相談してチケットを買いに走る。買えないのは分かっているけれどバスに乗りたいもの。空港職員にチケット売り場を尋ねても、教えてくれるのはやはりあの閉まっている売り場。そうこうしているうちにバスは行ってしまった。乗客があまりいないガラガラの状態で…。

私たち3人は、買えないチケットを探し走り回っていた。結果を生まない骨折り損。平行して最初にドライバーに訴えていたスペイン人女性が、他のバスで待機中のドライバーと何やら話をしていた。どうやら事情を説明して『チケット無しの料金現金払い。』で、臨時バスの運行をお願いしたようだった。

【グッド ジョブ‼】(よくやって下さいました。)

それから30分位待って、無事に出発することが出来た。

飛行機を乗り継いで、マラガの空港にやっと到着しての早速の出迎えがコレですか?(先が思いやられるわ!)実際この旅行中のショートツアーのリムジンのお迎えは、ホテルに15分遅れて来た。無論謝罪などない。けれどねエ~、これは想定内のハプニング。スペインのおおらかさというかしょうもなさ、今回の場合の融通の利か無さは承知の上。それでも旅行したいのだから仕方がない。なんだかコレって超いい加減な男を好きになってしまった時の気持ちと似ている。

そうよ、私が合わせれば良いの。この人に。

だって惚れちゃって会いたいんだもの。

もうどうしようもない❣

プロフィール

古野直子

横浜生まれ横浜育ち。結婚後10年以上夫の転勤で愛知県豊田市に居住。2011年に横浜に戻る。趣味は旅行。これまでの旅で印象深いのは、岡山の大原美術館、海外ではスペイン、ロシア。

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