エッセイ

五感で感じるエッセイ『イン・ラケ'ッチ!』

まつろわぬ者 ―来たぜ、東北!―

始発の東北新幹線はやぶさは、ほぼ満席だった。
今年、鉄道開業150周年を記念した3日間乗り放題のフリーパスが発売されたり、観光庁が実施した全国旅行支援の効果だろう。
再び、みんなが旅行を楽しめる生活が戻ってきたのだ、と実感する。

新青森駅に到着し、まずは「三内丸山遺跡」を目指す。去年、世界遺産に登録された「北海道・北東北の縄文遺跡群」の中のひとつである。
ここには、復元された建物が点在し、縄文のムラが再現されている。

隣接した「縄文時遊館」には、ミュージアムが併設され、大きなジオラマや出土品が並ぶ。縄文人の暮らしをイメージして、その日常を切り取った家族団らんのシーンなどが再現されていて、その穏やかで楽しそうな表情に、なぜか、涙が出てきた。
それが、懐かしさなのか、失ったものへの悲しみなのかよくわからない。
パソコンもテレビも電話もない。ライフラインと呼ばれる電気、ガス、水道もない。
そもそも、所有という概念がなかったと言われている縄文人。たとえ、そこにあるのが想像で作られた展示品であろうと、彼らの幸せそうな表情をみていたら、泣けてきた。
ただ純粋に「生きる」ことを楽しんでいた時代があったのだ。
現代に生きる私たちは本当に豊かなのか。「生きる」ことを楽しんでいるだろうか。
そんなことを考えながら、売店で買った「縄文ソフトクリーム(栗味)」をしみじみ舐めた。

「三内丸山遺跡」から車で約5分。古代の祭祀場だったという「小牧野遺跡」に到着。そこは、山奥に隠されたような場所だった。道の両脇は栗林になっていて、おいしそうな栗の実を抱えたイガグリが、あちこちに落ちていた。縄文人もこの栗を食べていたのかな?
栗林の先の開けた場所に、環状列石が並んでいた。ここで、古代の人々は何を祈ったのだろう。
夜になると満天の星空が眺められるというその場所は、優しい波動に満ちていた。

2日目の朝。
駅前のホテルからわずか徒歩2分のところに海があった。陸奥湾だ。この先に北海道がある。
文字通り、ここが、本州のキワ。端である。
目の前に広がる澄んだ海にしばし見惚れる。市街地にあって、この清らかさは奇跡だ。視界の左側に、役目を終えた青函連絡船が佇んでいる。

青森県から岩手県へ移動し、世界遺産「平泉」へと向かう。
源頼朝に滅ぼされるまで、100年余りに亘って栄えた奥州藤原氏。その初代、藤原清衡から三代かけて築いた平泉は、
「この世に極楽浄土を造るのだ」
と言った清衡の言葉どおり、浄土を顕現化させたような静かで美しい場所だった。
毛越寺(もうつうじ)では、池に映る空や木々の景色が、きれいなシンメトリーになっていて、まるで、この世とあの世の境界に立っているような気持ちになってくる。
どこを撮っても美しい。
どこをみても、ただただ美しい。

3日目。岩手県一関には二つの渓谷がある。名勝・日本百景の「猊鼻渓(げいびけい)」と名勝・天然記念物の「厳美渓(げんびけい)」である。読み方が一字違いの二つの名勝。
今回は、徒歩で散策できる厳美渓を訪ねることに決めた。

JR一ノ関駅前からバスで20分。
まず向かったのは、絶景ではなく、厳美渓名物「郭公(かっこう)団子」。またの名を「空飛ぶ団子」ともいう。これは、テレビなどでも紹介され、かなり有名なのだと後から知った。
渓谷を見下ろす東屋(あずまや)の近くに籠と木槌があり、籠に団子代500円を入れて、コンコンと木槌を叩く。すると、向こう岸の店舗とロープで繋がれた籠が、スルスルと店に引き寄せられ、
川の上空を渡って行く。
しばらくして、行きの倍くらいの速さで、サーーーーッと籠が戻ってきて、2杯の緑茶と3本のお団子が届いた。
想像以上のクオリティー!
お団子をモグモグし終えて、渓谷を見下ろす。こちらも、想像以上だった。
深く削られた谷底を流れる磐井川のエメラルドグリーンと、色づき始めた木々のコントラスト。サワサワと流れる水音が、辺りの静けさを、一層、際立たせる。

美しい。

この3日間で何度その言葉を口にしたことだろう。
これまで訪れたほかの観光地と何が違うのか。
それは、別次元にいるような、心を持っていかれるような美しさなのだ。
自然の佇まいが、清らかなまま残されている美しさ。
この地方は、もうすぐ雪に閉ざされる。その前に、人々の記憶に刻み付けようとするかのような美しさ。

冬になると、人々は一丸となって、雪かきや雪下ろしの作業を行う。
生きるために。
それは、縄文の昔から続いた、「共生」。
まだ、日本が統一されていなかった遠い昔、大和朝廷という強大な権力に屈服せず、自分たちの暮らしを守るためにみんなで戦った。蝦夷と呼ばれた彼らは、まつろわぬ(従わない)者とも呼ばれた。

私の両親はともに東北出身で、私にもまつろわぬ者の血が流れている。それを知った時、私に自己肯定感を与えてくれた。ああ、やっぱり。と、とても腑に落ちた。

縄文人が生き、蝦夷が生きた東北。
私のDNAが何かに反応しているかのように、胸がざわつく。
人と違っても、自分の心が選ぶ方を進んでいく強さ。
時空を超えて、そんなメッセージが届いた気がした。
ありがとうございます。

プロフィール

白川ゆり

CASA DE XUX代表/アロマハンドセラピスト/アロマテラピーアドバイザー
2009年~ マヤの聖地を巡るワールドツアーに参加。パレンケや先住民が住むラカンドン村等、数々のマヤの聖地を訪れる。
また、国内外のマヤの儀式において、火と香りで場と人を浄化する「ファイヤーウーマン」を務める。
2011年~ マヤの伝統的な教えを伝えるワークショップを開催。
マヤカレンダーからインスピレーションを得たオリジナルアロマミストシリーズ「ITSUKI」を制作。

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