エッセイ

旅は私の宝箱

イタリアらしさ

今から10年程前、夫の永年勤務の休暇を利用して夫婦でイタリアを旅した。
一応ツアーという名目だったがローマに4泊して全て自由行動。ユーレイルイタリアパスというチケットを事前に買って、ローマを起点にナポリやミラノに行く予定を立てた。

夫は初めてのヨーロッパ旅行。私は2度目のイタリア旅行だった。最初の旅で『イタリア』という国の人々の特質を私は承知していた。その特質はこの旅行でも裏切られず?思い出深い旅となった。

当時愛知に住んでいたので朝早く県西部のセントレア空港を発ち、成田から国際線に乗りオランダのアムステルダムの空港に着いた。ここまでは日本の航空会社。アムステルダムからローマ迄はイタリアの航空会社の飛行機に乗る。乗り換えで案内掲示板を見ると乗り継ぎ便が既に1時間のディレイ(遅延)。

”さあ、始まりました!これぞ時間におおらかなイタリアの旅。”

もっとも飛行機の遅延は航空会社の責任とばかりとは言えないとお断りしておきますが。 空港を移動して搭乗ゲートに向かう。夫が案内板を確認しに行き私は椅子に腰掛けた。すると、

「あと1時間遅れるらしいよ!」との夫の言葉。

「え~っ?」

私の大きな落胆の声に、向こうに座っていたカップルの男性がギョッとこちらを見てすぐさま案内板を確認しに行った。(そう、更に遅れるのヨーン。)私はそう思いながら彼の後ろ姿を見守っていた。

けれど海外を旅行時いつも不思議に思うのは、このような場合でもあまり世界中の人々は交通機関の遅れにイライラしていない。待つしかないのでイライラしたとて仕方ないのは分かるけれど。

そしてフライトの時間が近づくと各々ゲートに集まってくる。当初現地ホテル着が午後9時という案内でも”遅いなあ~。”と思っていたのにホテルに到着時刻は11時だもの。

少しでも早く現地に到着したい所が2時間遅れなんてやはりイライラするわよ。それから飛行機でローマに到着後、旅行会社手配の車でホテルに到着。ロビーで出迎えてくれた日本人スタッフのイタリアの治安についての注意点を聞き、部屋に入れたのは真夜中の12時でありました。

翌朝、私達は起床して朝食を食べにダイニングに行く。その時、フロントに寄って頼み事をした。この後文章中のフロントとの会話は英語。

「明日(月)のナポリ行きと帰りの列車、明後日(火)のミラノ中央駅行きと帰りの列車の時刻表をプリントして欲しいの。」

「OK!プリントしたら持っていくから。ダイニングで食事をしていて。」

との優しい返事。
お礼を言って私達はフロント横のダイニングで朝食を頂いていた。すぐにフロントマンはプリントした用紙を持ってきてくれた。「有難う。」と言いながら早速内容をチェックする。

”違う~!”

思った通り。間違った日にちの時刻表がプリントアウトされている。食事を終えて先ほどのフロントマンに伝える。

「ナポリに行くのは明日。今日(日曜日)の時刻表がプリントされているの。」

「OK!多分同じだと思うけれど、明日でもう一度やるね。」

”違う~!日曜日(祭日)と月曜日の列車の時刻は絶対違う。”

と心の中で言い返していた。

とまあこのような感じ、イタリアのサービス業の対応は。遅れたり間違えても”悪いと思っているのかしら?”と思うほどあっけらかんとしている。

だからこちらが、間違えている事を前提に対処しないと後で大変な目にあう。

けれどねえ~。ここはローマ。
1日にして成らない帝国だった。

あの見事なサンピエトロ大聖堂。遠く離れた所から観た景観は美しかったなあ~!
素晴らしい建築物や彫刻を創造した古代ローマ人が、現代の私の知る限りのイタリア人の祖先とはギャップがあり過ぎる。

そのギャップがイタリアの大きな魅力。
けれどここで1つ付け加えておきたいのは、無論イタリア人皆がいい加減な仕事をするわけではない。

バチカン市国近くのおみやげ物屋さんに入った時、可愛らしい少女が出迎えてくれた。歳は14、5歳位か?知的障害を持っているように見受けられた。私に

「ここにはクッキー、あそこにはレモンチェロ。あちらにはチョコレートがあるのよ。」

というような事をイタリア語で案内してくれた。

その一途な彼女の姿は私の心に深く刻まれた。
飛行機が2時間遅れて、ホテルのフロントマンは時間を間違えた時刻表をプリントする。けれどバチカン美術館の美しい絵画は天井にも広がる。 その絵を描いたが画家は、あまりに長時間描き過ぎて腰を痛めてしまったそうだ。

それほどの秀作は見た者を魅了する。相反して入館する時にチケットを受け取る人は前面に新聞を広げて読んでいて、その後ろを通る来客に気付く訳もない。

そして来る客、来る客に土産物の説明をする少女。

【全てが神のなせる業】

などと柄にもなく思ってしまった私。
だってここはキリスト教の総本山、バチカン市国のある場所だから。

プロフィール

古野直子

横浜生まれ横浜育ち。結婚後10年以上夫の転勤で愛知県豊田市に居住。2011年に横浜に戻る。趣味は旅行。これまでの旅で印象深いのは、岡山の大原美術館、海外ではスペイン、ロシア。

写真
このシリーズの一覧へ
エッセイをすべて見る
47PRとは
47PRサービス内容