エッセイ

旅は私の宝箱

昇るなキケン!

マレーシアに到着して、インビ駅からさほど遠くはないドミトリーにやっと着いた。この駅のお隣は中心部のブキ・ビンタン駅。少し外れた場所が私たちにはお似合い。フロントで手続きをして101号室を案内される。ドアを開けて部屋を見た時の、私たち夫婦のショックをお分かりいただけるだろうか? 説明しなければ、分かるはずはないのだけれど。

通されたのは窓の無い白い壁の部屋。奥に梯子があって、中2階のような所にベッドがある。イギリス人と思しき40歳位の男性スタッフが、「梯子の上にべッドがあるよ。」と英語で教えてくれる。
(そんなのわかるわよ、見れば。)
あとはデスクと椅子が1つ。バスルームは洗面所、トイレと仕切りが無い。給湯器のようなものが上の方にある。バスタブ無しのシャワーから出るのは水。浴び終わるころ、すこーし温かくなる。
ああー! やってしまった!

やってしまう迄の経緯をご説明しよう。

旅行は今年5月のゴールデンウイーク。予約はインターネットで2月にした。旅行サイトでまずは飛行機から。お金が沢山無い人の御用達はLCC。金額、日程を見ながら手続きをしていると
“航空会社から料金引き上げの連絡がありました。”という表示。
(急いで押さえなきゃ。)
焦る私。飛行機の予約が済むと
“ホテル予約はどうしますか? お安くしますよ。”という案内。
(安いの? どれどれ。)画面を展開して安い順に見ていく。(考えている予算があるのよ~。予算が。)

すると、あるホテルにドミトリールーム(相部屋)があった。写真を見ると感じも悪くない。予算的にも希望額に収まる。
(ここの、このスタンダードクラスにしよう。)とホテル選びをしたのだけれど…。

出発までの間、このホテルに対しての不安が無いわけではなかった。

旅系のYouTubeを観ていた。行先は東南アジア。マレーシアではなかったけれど。ユーチューバーがぼやいていた。「旅行サイト〇〇で選んだホテルだけれど、まあヒドイ。写真は良かったのに。安いんだけれど。」
その旅行サイト〇〇は私が使ったサイト。
(あのユーチューバーの部屋は私たちより料金が安いもの。大丈夫よ。)

大変バカだった。

ユーチューバーはシングルの部屋。私たちはダブル。料金が高くて当たり前。実は旅行前にこれには気付いていた。けれどキャンセルすれば料金が戻ってこなかったと思う、確か。だから少々不安があった。その不安が的中!

さて話は的中したホテルに戻る。

夫はシャワーを浴びながらため息をつくし、中2階への木製の梯子の階段は急。昇ると中2階と梯子の連結部分にはガムテープが貼ってある。それがめくれてヒラヒラ。危ないったらありゃしない。

3畳ほどの中2階のベッドルーム?は一応体裁は悪くない。ダブルの白い布団とかけ布団は清潔そう。多分、私が写真で見たのはこの部分。梯子を昇ってのスペースだとは思いもしなかった。階段の昇り降り時に気をつけなくちゃ!特に夜中、暗い中トイレに行く時梯子の手すりに掴まりながら確実に降りねば。(なんとかしなくちゃ!)この夜私は心に誓ったのでありました。

次の日朝、6:30頃目を覚ました私は外にタバコを吸いに行った。フロントにはスタッフがもう座っている。スタッフ(以降㋜と表記。)に映語で話しかける。
「他に部屋は無い?」「あるよ。見てみる?」「うん。」

㋜がカギを持って1階の違う部屋を見せてくれた。今の部屋より若干広く、梯子が若干緩やか。窓は無し。黙っている私に「気に入らない?」と問いかける㋜。無言の私。フロントに戻り、別のカギを取り2階に上がる㋜。続く私。ドアを開けた途端、私は日本語で叫んだ。
「ここが良いー!」

部屋の真ん中にはダブルべッド、バルコニー付きの部屋。まさに、地獄から天国。ただしシャワーは同じく水シャワー。

私の感嘆の日本語が㋜に伝わった。
「この部屋は1泊150リンギッドだよ。」と言う。カード払いだと5000円ちょっと。
「実は1泊多く予約しちゃったの。3泊なのに4泊って。」と言うと。「3泊なら追加料金なしで良いよ。」と㋜が言う。スタンダードルームの4泊分の料金で、スタンダード1泊とチェンジした部屋2泊分に変えてくれるらしい。

商談? 成立―!

私はそそくさと部屋に戻る。
(さあ移動の準備をしなくちゃ! 昨晩洗濯しちゃったし。)
ガサガサ片付けをしていると、夫が目を覚ました。
「部屋をチェンジしてもらった。移りましょ。」
寝起きのせいか反応の薄い夫。ちょっとがっかり。

夫は2階の部屋に行き入口から中を見ると、「ああー。」と反応はやはり弱い。荷物は自分の分だけ運べば良いように、朝から立ち働いたのに。

まあ良いか。夫をマレーシアのホテルに着いた早々地獄に突き落としたのは私だもの。普通にくつろげる部屋に変えた位でいい気にならない、ならない。

旅はこれから始まる。これから先、落ち着いて用心深く。

足を踏み外さないように。

プロフィール

古野直子

横浜生まれ横浜育ち。結婚後10年以上夫の転勤で愛知県豊田市に居住。2011年に横浜に戻る。趣味は旅行。これまでの旅で印象深いのは、岡山の大原美術館、海外ではスペイン、ロシア。

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