エッセイ

世界の地元メシ

ポルトガルのカステラ

知り合いから「半熟カステラ」をもらって食べていた。日本ではかなり前から流行っているし、コンビニでも良く売られている定番お菓子になってるよね。

この半熟カステラ、いただきものなので食べてるんだけども、実は私はあんまりこれが好きじゃなくて、いつも「生焼けの失敗カステラ売ってんじゃねえよ」って毒づいていた。

何となく、子供のころ自分で作って失敗した焼き菓子の味に似ているので、勝手にお菓子の失敗作だと思っていたらしい。業者さんごめんよ。

で、食べていたら急に、このカステラが、実はポルトガルのお菓子であったことを思い出してしまった。スペインまで来たついでに行っとくか程度のノリで、2か月ほど滞在したお菓子&ワインパラダイスの国、ポルトガルのお菓子だったわ、これ。

滞在中は主に市内観光とワインの試飲が無料でできるワインセンターという天国のようなところに連日入りびたり、片っ端からグビグビやっていた合間に食べ歩いていた、あくまで個人的な感想なんだけども。ポルトガルって、基本、ちょっとなんでも甘い。

ワインも甘め、サラダのドレッシングも甘め、フリットという天ぷらの皮もほんのり甘め、なんか魚の南蛮漬けみたいなのも甘め、お酢が出てくるとそれも甘め、香辛料が入ったソース出てくるとほんのり甘めってことで、こういうポルトガルの食文化がそのまんま伝わったのが長崎ってことなんだろう。

そう考えると、過日、長崎で食べたさまざまな甘めの料理にグロッキーになり、口をしょっぱくしようと思って食べたタクワンが、完熟バナナレベルに甘くてとどめをさされたのも頷ける。

さて、それでこの半熟カステラなんですが、名前はpao de loと言い、日本語だとパンデローと書かれているのですが、実際の読み方としては「パォンデェルオ」に近いかと思います。

日本の半熟カステラはしっとり重めですが、ポルトガルで食べたやつは、外しっかり目の焼きスフレ、または芯まで火が通ってないシフォンケーキという感じで、日本で表現している半熟のイメージより、もうちょっとリアルな生焼け感。

ポルトガルでは家に招かれるほど親しい知り合いがいなかったので、おうちに上がって食べることはなかったのですが、キリスト教会に知り合いがいるので会いに行ったら、ウェルカムのお菓子として、いろんなお菓子と一緒に出してきてくれました。

食べたら温かいからびっくりしたら、教会の厨房で焼いてくれたものだった。普通におうちで焼くこともできるそうです。

厨房見せてもらったら、孤児院でおやつに出すためと、教会の資金稼ぎのために、シスターたちがせっせと焼いていました。レシピは以下の通り。

  • 卵4個
  • 卵の黄身10個
  • 白砂糖カップ250g
  • 小麦粉125~150g

つくり方がカンタン過ぎて信じられなかったんだけど、砂糖と卵を全部ミキサーで10~15分混ぜてアワアワにしたら、小麦粉を静かに入れてヘラで軽く混ぜ合わせて型に入れ、200~220度のオーブンで10分くらい焼いたら出来上がってた。

そのままだと熱いし、卵の味しかしないから、出してから1~3時間くらい冷ましてからが形もしっかりして食べやすいのだそう。焼き型がない場合は、浅いカレー皿にクッキングシート引くだけでもよいそうな。

そこの修道院のオーブンはかなり古いもので、やや200度程度のところでメモリが止まって動かなくなっていたし、焼き時間に至っては誰も時計なんか気にせず、ちょこっと覗いて、何となく茶色くなって膨らんでたら出しちゃっていました。なので、適当ってことみたい。

要するにこのお菓子のキモである半生加減は、小麦粉の125~150gの中に秘密があるらしい。125に近いと真ん中がぺしゃんこでユルフワした出来上がり、150に近いと真ん中まで形のあるトロリ系になるってことで、後者は冷蔵庫にしまってまた食べられる硬さ。

教会でよく買ってくれる人は、自分の好みの硬さがあるらしくて、数種類あった。いくつか食べさせてもらったけど、125に近いほうは、溶け始めたスフレだね。放置しておくと中身が液状化してきます。

ポルトガルでは比較的どこのパン屋にでも売っていたんだけど、この国はクリスチャンが多いので、奉仕活動の気持ちとして教会で買ってくれる人が多いんだそうな。まあなんか、教会で焼いてくれたもののほうが清められそうな気持ちにもなるよね。

パン屋さんで買って食べてみたものは、もうちょっと小麦粉が多い、しっかり目のものが多かった。あまりにもゆるゆるだと、日持ちの問題もあるのかも。日本の半熟カステラも、このパン屋さんのに近いと思う。

そんなわけで、久しぶりにポルトガルのことを思い出したので、今夜は半熟カステラと一緒にもらったポルトガルの白ワインに合わせて、甘い南蛮漬けでも作ろうかね。パッと思いついたときに自由に旅に出られなくなったのはつまらんが、食で心の旅は出来るもんね。

プロフィール

ほしのしょうこ

25年ほど雑誌・WEBマガジンなどで記事を書き散らしているフリーライター。 副業でWEBデザイナー崩れもしている。趣味は散歩と仕事。重度の放浪癖があり世界を鞄一つで浪漫飛行していた。現在は頑張って日本に定住中。

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