エッセイ

五感で感じるエッセイ『イン・ラケ'ッチ!』

神々の国、熊野へ

古座川の一枚岩

2017年4月29日~30日。
地域の活性化を目指す熊野在住の有志の方々によって、「奉納と祈りIN古座川峡」が開催された。
歌、舞、演奏等、日本各地から総勢60名のパフォーマーが招致され、2日間で5か所を巡った。
私は、天麻那舞(あまなまい)の舞手の一員として参加させて頂いた。
天麻那舞は、麻を用いる舞である。日本女性の誰もが持っている本質の美、振る舞いという名の「舞」を通して、舞手も観る方々も、空間も祓い清めて、天地を結ぶ舞として、現在、日本各地の神社仏閣で奉納させて頂いている。

私が熊野を訪れるのは今回が初めてである。緑濃く、どっしりとした重々しいイメージがあったが、実際に行ってみると、そこは、海と山と川と人が寄り添う、懐深く温かい場所だった。

最初の奉納場所は、「補陀洛山寺」(ふだらくさんじ)。2004年7月にユネスコの世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」の一部として登録された。ご本尊の三貌十一面千手千眼観音は重要文化財に指定されている。
また、このお寺は平安時代から江戸時代にかけて行われた「補陀洛渡海」の出発点でもある。
「補陀洛渡海」とは、出入口を釘で打ちつけた扉のない屋形船に乗り、30日分の脂と食糧を携えて、南海の彼方にあるといわれた観音浄土を目指した、捨身行のことである。


補陀洛山寺の本堂で奉納舞

続いて、西国三十三所第一番札所、熊野三山の一部「那智山青岸渡寺」へ。
重要文化財の本堂で、関係者一同御祈祷をして頂いた後、三重塔で奉納をした。
新緑と三重塔のコントラストが美しい。その向こうにどうどうと流れ落ちるのが那智の大滝である。
空は青く澄み渡り、見えない何かに歓迎されているのを実感する。


補陀落渡海船の屋形船

那智青岸渡寺・三重塔

二日目は、古代から続くと言われる「宇津木 矢倉神社」での奉納。
この神社には、鳥居も社もない。ご神体は、ご神木や石だ。代々その土地の方々が大切に祀っている「神社」である。この神様は、本当の意味で人々に寄り添った「家族」なのだ。
今回のイベントのために、土地の皆さんが、草を刈り、穴を埋め、場を整えて下さった。奉納をとても喜んで下さった。
立派な建造物がなくても、そこに人の「想い」があれば、神様はどこにでもいる。

そして、いよいよ、今回のメインイベント。古座川の一枚岩へ。
紀伊半島の南を流れる古座川は、川底まではっきり見通せるほど透明度が高く、クリスタルリバーと呼ばれる。
その流れに沿って、高さ150メートル、幅800メートルの巨岩、天然記念物 “一枚岩”がそびえる。
“一枚岩”は、古座川から那智勝浦にいたる、古座川弧状岩脈の一部である。春には岩肌が緑に色づき、秋には紅葉した様子が炎のように見える。
平成の名水100選、日本の秘境100選、日本地質100選にも選ばれている。まさに、見渡す限り絶景のオンパレードである。
こんな最高のロケーションで舞を奉納させて頂けるとは。

古座川を挟んで一枚岩の前に立つ。岩と言うより山である。
その日は一足早い夏日で、空から降り注ぐ光も強く、川に足をつけても、冷たく感じないほどだった。


古座川峡

私は、摩天楼の東京育ちである。高い建物には慣れていた。
だが、ひんやりした高層ビルとは明らかに違う、「生きている」存在感に圧倒された。川を挟んでいながら、”一枚岩”の体温が対岸まで伝わってきて、確かな息吹きを感じた。
目の前の岩は生きていた。

見えない何かに見守られながら、私たちは舞った。それは、とても心地よいものだった。スピリチュアルとかパワースポットなんていう言葉が出来るずっと前から、「それ」はここに存在していたのだ。
自然と共生する。八百万の神々と共生する。森羅万象を慈しむ。古来から続く日本人の原点がここにあった。

古座川町のホームページに、こう書かれている。
『古座川町には信号がありません、コンビニもありません、マンションもありません。古座川町には満天の星空があります、澄んだ空気があります、きれいな水があります。ここへ来て「無い」と感じる人もいるでしょう。「有る」と感じる人もいるでしょう。まずは感じてみて下さい。』と。

情報も感動も、過剰なほど与えられる事に慣れてしまった私たち。自然と向き合い、自分と向き合うことで、眠っていた感性を取り戻す機会になるかも知れない。
ゴールデンウィークが終わって間もないが、次の大型連休、夏休みの行き先候補に、熊野を入れてみてはいかがだろうか?

プロフィール

白川ゆり

CASA DE XUX代表/アロマハンドセラピスト/アロマテラピーアドバイザー
2009年~ マヤの聖地を巡るワールドツアーに参加。パレンケや先住民が住むラカンドン村等、数々のマヤの聖地を訪れる。
また、国内外のマヤの儀式において、火と香りで場と人を浄化する「ファイヤーウーマン」を務める。
2011年~ マヤの伝統的な教えを伝えるワークショップを開催。
マヤカレンダーからインスピレーションを得たオリジナルアロマミストシリーズ「ITSUKI」を制作。

写真
このシリーズの一覧へ
エッセイをすべて見る
47PRとは
47PRサービス内容