エッセイ

旅は私の宝箱

本物のススメ―京都府―

一昨年、居酒屋で京都土産を頂いた。 友人から「昆布の佃煮。」と包みを手渡された。「アリガト。」(嫌いなんだよナ~。ガッカリ..。)この時友人は何も言わなかったが、私はとても分かりやすいらしい。好きではない物はその時の雰囲気ですぐに分かるようだ。ただ、この佃煮を食べた感想は実に意外なものだった!その時まで嫌いだったのは本物を食したことがなかったからかもしれない。

頂いてから数日後、”まあ食べてみるか。”という位の感じで封を開けた。小さめの袋に昆布としょうがが透明な汁に浸されて入っていた。”おや!うん、う~!”というのが私の感想。昆布の佃煮についての私の遠い記憶は、固い、ベトベト、昆布臭い。だが全然違う!柔らかく、臭みはしょうがが消していた。さっぱりしているのに味わい深い。出しゃばらない、でもしっかりした嫌みのない旨み。味が分をわきまえた自己主張をしている。少ししかなかったので大切にたいせつに食べた。昆布がなくなってからはしょうがも残さずに平らげた。食べ尽くした後は寂しさが心に広がった。

その友人に次に会った時、お礼を言いながら佃煮を買ったお店を尋ねた。「五辻という所。京都の中心から少し離れた場所にあるの。女優の羽田美智子さんもお気に入りなのよ。種類も色々あるの。」ええ~!ほかの昆布も是非食べたい。この前は温かい白ご飯にのせて頂いたけれどお茶漬けにも合うだろうな。お酒のつまみにも良い。お茶うけにも。まさか”また下さい。”というわけにもいかないし。そういえば、昔パート先で頂いたお新香もおいしかったなあ~。お新香はもともと好きだから昆布ほどに衝撃は無かったけれど。あれも京都のお店で買ったもの。同志社大学の横にあるお店らしい。お昼ご飯の時に振る舞って頂いた。パクパク食べるのに夢中でお店の名前を聞かなかった。後で気になって調べてみると野呂本店という所らしい。昆布とお新香。おいしいお店が京都にあるのは頷ける。

旅行好きな私は海外にもよく行っていて食事を楽しんでいる。むろん、美味しいものは沢山食べた。が、日本のこの食文化の豊かさは世界一と言っても過言ではないないだろう。日本人が日本の食べ物を好むのは当然だけれどこの多様さに肩を並べる国はあるのか?ご飯のお供1つとっても昆布や漬物など。ああ、納豆も。納豆には何をまぶすか?ネギ、おかか、それともぶっかけ卵?ともすればわき役の面々もこれだけのバリエーションがある。

存在感のある昆布の五辻。京都の中心部から離れた場所にあるのがますます渋い。ピカピカの観光地も良いけれど、中心から少し離れた所に食べ物を求めて足を延ばすのも悪くない。私は知らない土地を歩くのが大好き。五感すべてを使って見知らぬ町を感じたい。そこでの新たな出会いを期待しながら。

プロフィール

古野直子

横浜生まれ横浜育ち。結婚後10年以上夫の転勤で愛知県豊田市に居住。2011年に横浜に戻る。趣味は旅行。これまでの旅で印象深いのは、岡山の大原美術館、海外ではスペイン、ロシア。

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