エッセイ

世界の地元メシ

ハム・ステーキ イン サンディエゴ

なんだか小説のタイトルみたいな感じになってますが、「ハム・ステーキ イン サンディエゴ」なんですよ。

ハム・ステーキはそんなに珍しくもないと思うけど、アメリカのハム・ステーキってのはポンドで出てくるので、気合を入れてオーダーしなければならないメニューの一つですな。

さて、西海岸でプラプラしていた時、急にカリフォルニアから車でサンディエゴまで行こうかなーと思い、何となくフラっとレンタカーをして向かったことがある。

車の運転は得意じゃないけど、アメリカのだだっ広い道路ならば、別に技術とか必要ないので、本当に思いつきで出かけた。

というのも、今でこそ車のウーバーとかあるけど、当時は、タクシーで長距離なんてないし(てか、危ないし)、バスはバス乗り場が市街地から思いっきり離れたところにあるので、行くのに手間がかかるし、飛行機に乗るほど行きたいわけじゃないってことで、消去法の選択肢がレンタカーだったわけです。

疲れたらどこか適当なホテルに泊ってけばいいやーと思っていたので、手持ちのグッズはコーラ3本とドリトスという気軽さ。しかしこれが、完全な間違いであることに、わりとすぐに気がつくのだった。

フリーウェイを1時間ほど南に行ったあたりで、なんか車の調子がおかしい。速度を落として走っていたら、バスンって音がした後、まったく動かなくなってしまった。

少し煙っぽいので、なんかエンジンがヒートしたらしい。ただ、これってアメリカのレンタカーだと割とよくあるので、そういう時はラジエーターに水をぶっかければOK!

の、はずなんだけど。そう。水がね。ないのよ。

コーラかけちゃおうかなって思ったんだけど、レンタカーだからさ。万が一、コーラが焼きついてしまってエンジン壊したとかだと、すごい金額請求されそうだから、ちょっとできないんだよね。

で、ここがまたアメリカなんだけど、多分、手を挙げれば誰かしら、必ず手伝ってくれるんだけど、どんな人が停まってくれるかわからないから、うかつにヘルプは頼めないのね。

こういう時の正解は、車から一歩も出ないでパトロール車が来るのをひたすら待つ!なんだけど、何でか知らないけど、その日は何時間待ってもパトロールのバイクですら来なかった。

当時は携帯もないし、だんだん日が暮れていくし、交通量は減っていくし、ハーレーに乗ったお兄ちゃんが、私の車の前を「ヘイヘ~イ!」って声をかけながら、何度も往復するようになるし。

これは、そろそろヤバいなあ……と思っていると、フリーウェイの脇道から車道まで歩いて来た背の高い男性が、窓をノックして声をかけてくれた。

何でも今日は、大きなトラック事故があったから、みんなそっちに行っててパトロールは深夜にならないとこないと思う、と。それで、レンタカー会社に電話するなら、うちで電話したら?と提案してくれて……。

何でその時、ついていったのかわからないけど、とにかく、その人が信じられない様な清廉な印象の男性だったので、大丈夫そうだと思って「ありがとう、助かる!」と二つ返事でついていってしまった。トイレにも行きたかったしな。

その人は、本当にフリーウェイの脇道から入る小さな木立の中にある丸太で出来た家(決してログハウスではない)に住んでいた。木が新しいから新築っぽいけども、とても古い家のような印象を与える不思議な丸太小屋だった。

電話を貸してくれたので、レンタカー屋さんが代車を持ってきてくれることになり一安心。ただ、到着は4時間後くらいになるらしい。お腹も空いてきたし、近くにレストランとかあるかと聞いたら、ごはんを作ってあげるよって言って、作ってくれたのがハム・ステーキだった。

10センチくらいの厚切りハムをバターでサッと両面を焼いた後、ルートビアをハムの半分まで入れてふたをして煮込む。こうすることで、ハムがふっくらして、食べやすくなるんだそうだ。

煮汁が少なくなってきたらふたをあけて水分を飛ばし、鍋肌に残った煮汁をハムにかけながら焦げ目がつくまで焼いていく。これだけ。あとは、レンジでチンしたマッシュポテトをつけて完成。

レンジがない場合は、煮始めた時に適当な大きさに切ったジャガイモを放り込んで、一緒に蒸し煮にしたものを途中で引き揚げ、皿の上でスプーンの背でつぶせば良いのだそう。

ハムを切るとジュワッと肉汁が出て、お肉食べてます!って感じ。ハムの塩気が煮込んで消えているので、こうやって食べると、ハムが本当は肉であることをしみじみと感じる、良い食べ方だなって思った。

このハムステーキの人は、セトさんという方で、最近、他の地域から流れてきた、とある宗教の宣教師さんだということだった。ベッドの横には仕事用のパソコンが何台も並んでいて、それがこの丸太小屋とはチグハグで、本当は宇宙人なんじゃないかと思ってしまった。

セトさんが言うには、ハムとビールとジャガイモは、世界中どこの国に行ってもあるから、必ずこれが食べられる。無かったら、コーラでもいいんだよ、っていう放浪者アルアルなどを詳しく伝授してもらった。

少ししたら、レンタカー屋さんから電話があって、車のところにいるからってことになったので、セトさんと一緒に車まで戻り、新しい車に交換してもらった。セトさんが、疲れているなら泊っても良いんだよって言ってくれたんだけど、ベッドは一個しかない模様なのでやめておいた。

お礼が何もなかったので、持ってきていたコーラを三本手渡し、ありがとうとお礼を言ったら、旅のご加護になるっていう呪文のようなものを、見たことのない手振りで私にかけてくれた。

きっと、22時過ぎのハイウェイの車のライトのせいだと思うけど、私とセトさんの身体が金色に光って、目を閉じたのに金色の光が続いたのが、忘れられない。

その後、宣教師セトから伝授された、さまざまな放浪者のノウハウは、その後数年間続く私の旅の先々で私を救ってくれた。

旅の呪文が効いているのか、それとも彼のノウハウが本物だったのかわからないけど、そういうラッキーがあった時は、捧げもののような気持ちでハム・ステーキを食べることにしてる。

セルフキッチンでコーラ版をやってみたけど、明らかにルートビア版の方がおいしいな。きっとあのビールの中にある成分が、お肉と合うんだろう。日本だとエビスビールみたいなどっしり系のビールでやるのがよさそうですよ。

プロフィール

ほしのしょうこ

25年ほど雑誌・WEBマガジンなどで記事を書き散らしているフリーライター。 副業でWEBデザイナー崩れもしている。趣味は散歩と仕事。重度の放浪癖があり世界を鞄一つで浪漫飛行していた。現在は頑張って日本に定住中。

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