エッセイ

47都道府県 イラストで名所巡り♪

徳島県「鳴門の渦潮」秋

秋になり旅するのに良い季節になりました。
皆さんどこへお出かけになるでしょうか。

今回は徳島県です。徳島県の名所で絵に描きたかった情景がありました。

地形の関係で潮の満ち引きの差が生まれ、世界一の渦潮につながる「鳴門の渦潮」と平家伝説の舞台である秘境の「祖谷」にある「祖谷のかずら橋」です。どちらも自然と調和した美しさがあり魅力があります。

今回は「鳴門の渦潮」の自然が作り出す不思議で面白い情景を描くことにしました。そして創作小説はいつもとは少し違うファンタジーのお話です。
是非イラストと共に小説も読んで頂けたら嬉しいです。

「女神様の心の洗濯」

私はフェリーに乗り、目の前で渦潮を見ている。渦潮はまるで海を洗う大きな洗濯機のようにグルグルと渦巻いている。キラキラと光る日差しが海に反射して美しい。海の深い青緑色が実際よりも濃く、深く見えた。渦潮の中心を見ながら「のみこまれる~!!」思わず声が出た。
 
 
2年前、子供が1歳の時に保育園に子供を預け仕事に復帰した。仕事に育児に全力投球して毎日一杯一杯だった。時間がない、余裕がない、全てが中途半端になっていた。

子供が大好きで産んで、思い切り一緒に過ごしたいのに、仕事が忙しくて子供と一緒にいる時間がない。

何で、こんなにやらなきゃいけないことが多いんだろう。私は一体何をしているんだろう。何でこんなに辛いんだろう…。目の前の膨大な悩みが頭の中をぐるぐると回り、溜息が止まらなかった。子供を産む前は、周りの子育てしている友達が大変そうにしてても、生き生き楽しそう、と勝手に良い部分だけを切り取って見ていたようだ。

「はぁー(溜息)」
もう体も頭も動かない。とはいえ、子育てを放棄するわけにいかない。今日は流石に身体がしんどいので、旦那に保育園のお迎えを代わってもらいたいと携帯に連絡したが、留守電。折り返しも掛かってこなかった。

今まで旦那がお迎えを代わってくれたことはほぼゼロに近い。旦那も仕事がハードなのだ。子供が熱を出しても100%私がお迎えに行く。毎日限界ぎりぎりまで最大限の力を振り絞り仕事を終えて家に戻り、保育園へお迎えに行き、夕飯を作り、食べさせ、お風呂に入れ、寝かしつけ、弱音も吐かず頑張っている。

たまに手伝ってくれる母の存在もありがたかった。でも、その母は先月急に倒れて入院中だ。介護もいよいよ目の前に迫ってきているのを感じた。

「あーしんどい!」、
自転車に乗りながら、思わず口から出た。そんな気持ちで保育園へお迎えに行き、その後はいつものように目が回るような多忙のスケジュールをこなす。子供を寝かしつけ、すやすやと寝息が聞こえてくると、頭をなぜながら天使のような子供の顔をじっと見つめる。この時間が1日で一番癒される。しばらく子供の寝顔を見ながら幸福感に満たされた。そして、真っ暗闇の中、もぞもぞと起き出してリビングに戻ると、倒れるようにソファーに横になった。

「はぁーー(溜息)。今日も1日頑張った!!」。
伸びをして一息ついたとたん、一瞬で眠りに落ちてしまった。

夢の中でテレビを見ていた。ニュース番組で「徳島の鳴門の渦潮」が映し出された。その大きな渦潮は突然テレビの外にはみ出してきて、目の前に迫ってきた。驚いて「うわあぁぁ~!!」と大きな声を上げた。だが、逃げる間もなく、渦潮の大きな口に身体ごとのみこまれていった…。

私は一瞬で青い暗い海に放り出され、そして海の底へ落ちていった。海の底は濃い緑と紺が合わさった深い色だった。何も音が聞こえない、静寂。でも怖くなかった。私はしばらく海の底で漂っていた。クラゲのようにゆらゆらと何も考えず暫く揺れていた。まるで母親のお腹の中にいるような包まれるような安心感があり、とても気持ちが良かった。

すると、一筋の光が現れて女神様が歩いてきた。「いつも頑張っている貴方に。」そう言って私の手に小さな「ピンク色の貝殻」を渡した。「これを持っていると貴方の心がきっと楽になる」と言った。涙が急に溢れ出てきた。私は女神様に心に溜まっていた全ての悩み、不安、闇を吐き出した。女神様は黙って話を聞いてくれた。「貴方が日頃頑張って毎日を精一杯生きていることが分かりました。」と言って寄り添ってくれた。心がほっと癒された。

急に眩しい光筋が目の前に現れ、大きな音がして目を覚ますと、旦那が「ただいま」と帰ってきた。そして、目の前のテレビに夢の中に出てきた渦潮が映し出されていた。全ての嫌な黒い悩みを飲み込んで地中深くにおいやってしまう、そんな女神様の化身にも見えた。私は手の中にぎゅっと握り締しめている物に気づいた。それは「ピンク色の貝殻」だった…。

プロフィール

本山浩子

東京都出身 イラストレーター 人物のハッピーでキャッチーなタッチと風景の和む優しいドラマを感じるタッチで出版・広告等で、大人から子供向けまで幅広い世代に愛されるイラストを手掛ける。2013年に読売新聞夕刊で毎週「本山浩子の駅前とことこ」で散歩イラストエッセイも連載。
47エッセイでは旅に出たくなるような47都道府県の名所のイラストを楽しく描き綴る。
公式サイト

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